だから言ったのに

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 熱でどうかしてる時に思い浮かべた馬鹿げた妄想を舌打ちとともに全否定して、僕は葵咲(きさき)ちゃんの待つ寝室へ戻った。  葵咲ちゃんは僕がそばを離れないと約束したからか、安心した様子でまぶたを閉じていて。  規則正しく上下する布団の胸元を見て、眠ってしまったのかな?と思う。  着替えは……葵咲ちゃんが目を覚ましてからにしよう。  いま葵咲ちゃんが着ている服はシワになってしまうかもしれないけれど、そんなのは後でどうとでもなる。  それよりも葵咲ちゃんの身体を休ませてあげる方が大事だ。  小さく寝息をたてる葵咲ちゃんを見下ろすと、彼女の額は僕がさっきかき分けたままに前髪が左右に軽く分かれていて。  しっとりと汗ばんだおでこに、後れ毛が張り付いていた。  僕は、彼女の愛らしいおでこに張り付いた髪の毛を、指先でそっと除けてあげる。  さっき口付けた時より額が熱い気がして、キッチンに置かれたままの氷のうと氷枕を準備したほうがいいな、と思った。  葵咲ちゃんが、僕の発熱を知って実家――丸山家――から借りて来たというそれらは、もうしばらく借りたままになりそうだ。  2人とも元気になったら、こう言う時に備えてうちにも新調しておこうかな。  それはさておき――。  葵咲ちゃんが目を覚ました時、自力で着替え、出来るといいんだけど。  無理だったら僕、邪念なく彼女を着替えさえてあげることが可能だろうか。  そんなことを思いながら、僕は愛する彼女の、熱に浮かされた寝顔に再度視線を落とした。  常とは違っていても、僕の葵咲ちゃんは凶悪に可愛いくてホント困る――。      END(2020/09/08〜9/29)
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