終焉

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足音のする方向を見ると、手毬の手を繋ぎながらスズランの群生の中をこちらに向かって歩いて来る美沙子がいた。 「あ、美佐子さん。話が終わったようですね」 「そうだね。じゃあみずっち。私達は車の方へ行ってようか」 日引はそう言うと元来た道を戻り始めた。 「あれ?おばさんどこに行くんですか?」 自分の方に向かって歩いてくる日引に美佐子は声を掛ける。 「桜は十分拝んだからね。先に車の方に行ってるよ」 「あ、じゃあ私も・・」 「いや、美佐子ちゃんもあの桜をよく見てきた方がいいよ。色々な事を知ることが出来るかも知れないからね」 「色々な事?」 美沙子は聞き返したが、日引は何も言わずニコニコとしながら歩いて行ってしまった。 山を下りてきた日引と水島は、停めてある車の方へ行くと 「萩野さん、美佐子さんに話すんですかね」 「改めて話さなくてもお互いにもうわかってると思うよ」 「分かってる?誰か教えたんですか?二人が母娘だって事」 「誰かが言わなくても、本当の母娘は分かるものさ。今回の出来事の中でも萩野は母親としての行動が出たんじゃないかと思うけどね」 「そう言えば・・地下牢が崩れる時、放心状態の美佐子さんに平手打ちして叱ってましたね」 「ヒヒヒ。どんな事情があったとしても、他人のフリなんか出来ないさね」 「女性って凄いですね」 「ああ凄いね。本当に凄いよ。人を想う気持ちって言うのはね」 珍しく仕切りに感心している日引を不思議に思った水島は、日引が見ている方向を見た。 そこには、大きなカバンを二つ提げた芽衣が満面の笑みをたたえながらこちらに歩いてくる。 「あれ?芽衣さんお出かけですか?」 「はい、先程幸子様にお暇を頂いてきました。急な事なので叱られるかと思いましたけど、頑張ってねって言われて。なんだか幸子様、人が変わられたように優しかったです」 「そうですか。因みにどこに行かれるんですか?」 「水島さんと言う人のところです」 「水島・・そうですか。僕と苗字が同じですね」 「同じも何も水島さんの事ですよ」 「へ?」 水島は素っ頓狂な声を出し芽衣の顔をまじまじと見る。芽衣は、愛嬌のある顔にこれ以上ない笑顔を浮かべると大きな声で 「宜しくお願いします‼︎」 と、ペコリと頭を下げた。 その様子を見ていた日引は「ヒヒヒ」と楽しそうに笑った。 ふと見ると、こちらに歩いてくる美佐子と手毬、萩野の姿が見えた。三人はとても幸せそうな表情をしているのが遠目でも分かった。 (願いが叶って良かったね。静子さん) 日引は、山の頂上付近にあるピンク色の桜を見てそう思った。 注 静子が生きていた明治の頃の「かごめかごめ」の歌詞は現代の歌詞とは違いますが、この作品の中では現代の歌詞で書かせていただきました。
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