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「日引さん。ポスト確認してますか?」
「うん?」
「こんなに手紙が沢山入ってましたよ?駄目ですよ。目を通さなくちゃ」
「全くあんたは姑みたいにぐちゃぐちゃとうるさいねぇ。その辺に置いといておくれ。後で見るから・・・ん?」
面倒くさそうに答えた日引が最後となる大福に手を伸ばした時、水島がテーブルに置いた手紙の束の中に気になる名前を見つけ手を止めた。
「どうしました?」
水島の問いに答える事なく黙ってその手紙を取ると、封を開け中の手紙を読み始める。
暫くの後、手紙を読み終えた日引は「なるほどねぇ」と言ってテーブルに手紙を置くとお茶をすすった。水島は手紙を読む日引の顔の皺が少し上がったのを見ていたので「こりゃ何かある」と感じ、すかさず読み終えた手紙を取り読んだ。
「勅使河原・・もしかして勅使河原って、あの勅使河原財閥の事ですか?」
「そうさ」
「ええ~!日引さんそっちにまで知り合いがいたんですか!ホント計り知れないっすね。それにしてもこの美佐子さんて人、日引さんの事命の恩人って言ってますけど何があったんです?」
「昔々の事さ。あの時はまだこの子が八歳くらいの頃だったかねぇ。両親がいなくて施設にいたんだよ。その施設での生活が上手くいかなくて、いつも近くの公園で一人でブランコに乗っていた。当時私はまだ二十代でね。その公園の近くに住んでいたから、公園付近は散歩コースに入っていたんだ。そこで知り合い話したのがきっかけだったね」
日引は、大福に手を伸ばし口に運ぶ。トロリと垂れる柔らかい餅が日引の口から白い線を描くように伸びる。
「うん。美味いね」
満足気にそう言うとあっという間に平らげてしまった。
水島はその様子を見て、承知とばかりに台所へ行くと急須に熱いお茶を入れ持って来る。
「それで・・何があったんです?」
湯飲みに新しいお茶を注ぎながら水島は水を向けた。
「あの時はね・・」
淹れたての熱いお茶を、息をかけ冷ます事もせずに一口飲んだ日引は話し始めた。
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