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美佐子との出会い
その当時の日引は、夕暮れ時の散歩を日課としていた。
春夏秋冬。毎日同じ時間の十七時。一年を通して同じ時間帯に散歩に出ると、日の入りの違いや草花の移ろい等を見て自分が生きているという実感を味わう事が出来た。
コースはいつも同じ。自宅を出て住宅街を抜け市街地をまわり、別の道から住宅街に入り自宅へと戻る。それ程長くない道のりだが、日引を満足させる変化がその短いコースに沢山詰まっていてとても楽しかった。
その帰りのコースの途中に小さな公園がある。ブランコと滑り台、古いベンチが一つという寂しい公園で、日引が公園の横を通りかかる頃は十七時を過ぎているせいか遊んでいる子供を見かけたことは余りなかった。
しかし、そんな寂しい公園にいつの間にか一人の女の子がいるようになったのに日引は気が付いた。
その子はブランコに乗り、いつもつまらなさそうに足を地面に着きゆりかごの様にブランコを動かしている。
日引は、その女の子を見かけるようになってからはその公園にたちより休憩をすることにした。
その日も日引きは、公園のささくれ立った古いベンチに座っていた。
キィ・・キィ・・キィ・・
静かな公園に、女の子が揺らすブランコの軋む音が響く。
下を向きブランコの鎖を両手で持つ女の子。着ている服は新しそうで裕福な家の子のように見える。下を向く顔におかっぱの黒髪がかかっているのでよく見えないが、僅かに見える顔で可愛らしい子だと想像できた。
(面白い物を背負った子だねぇ)
女の子を見て、日引はいつもそう思っていた。日引に視えていたもの。それは、女の子の後ろに大きな爺さんの顔があるのだ。爺さんと言っても普通の爺さんではない。翁。あの翁の面である。
墨を塗ったような真っ黒の顔の中には、深い皺が刻まれいやらしく垂れた目。大きな広い鼻の下には今にも声が聞こえて来そうな程に笑った口元。その口元は下顎は動くのか口角辺りで紐で結ばれており切り顎となっている。その顎には立派な白く長い髭が蓄えられ優しい表情の中にも威厳を感じる。
(アレは相当なものだよ。触らぬ神に祟りなし・・かな)
その当時の日引は、まだ自分の能力に自信がなく極力そういうのからは距離を置いていた。もしかしたら、自信というそういうものではなく過去の辛い経験がそうさせていたのかもしれない。
人は、少しでも違う所があると常人を奇人と感じるようだ。もうあんな思いは二度としたくないと感じているのか・・
しかし、運命というのはそんな日引を放っておいてはくれないようだ。
今日は、いつもとは違う事が起きた。
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