41人が本棚に入れています
本棚に追加
ブランコに乗っていた女の子が立ち上がり、ゆっくりとベンチに座る日引の前に歩み寄って来たのだ。
目の前に立つ女の子は、大きな瞳で遠慮がちに日引を見やると
「おばさん。私とお話ししてくれる?」
おかっぱの頭を少し傾げてそう言った。
日引はその愛くるしい仕草を見ながら(ほっといてはくれないようだね)と諦め
「いいよ。何をお話ししようかね」
と、笑いかけ自分の隣に座るよう手でベンチを軽く叩く。
女の子は嬉しそうに笑うと日引の隣に座り、足をぶらぶらとさせ何を話そうか考えている様子だった。
「おばさんはいつもこの公園に来るけど一人なの?」
「そうさ」
「じゃあ、私と同じだね。私も独りなんだ」
「そうかい。お母さんとお父さんはどうしたんだい?心配しないかい?」
少し暗くなってきた空を見ながら日引は言った。すると、女の子は俯き寂しそうにしながら
「・・・いないよ。お母さんもお父さんもいない。友達もいないんだ」
「・・そうかい。じゃあ、私があんたの友達第一号になってあげようかね」
「え?本当⁉」
パァっと明るい笑顔に変わった女の子は大きな目を日引に向けた。
「本当さ、じゃあまず自己紹介から始めようか。私は日引って言うんだ。ここから歩いて五分の所にあるアパートに住んでるんだよ。隣に良く吠える犬を飼っている家があるからすぐに分かるよ。そこで一人で住んでるんだ」
「あ、知ってる!学校に行く時いつも通るんだけどよく吠えるんだよね。あの犬。じゃあ今度は私の番。私、勅使河原美佐子って言うの。小学二年生。住んでる所は・・」
美佐子は日引から視線をずらし言い淀んだ。
「仲間の樹・・かな?」
「何で知ってるの⁉」
目を丸くして日引を見る。
「何となくね」
仲間の樹とは、近所にある施設で両親がいない子供達が共同で生活をしている。確か、中学校を卒業するまでの期間だけで、その後は出て行かなくてはいけないと聞いた事がある。
最初のコメントを投稿しよう!