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落ち着くのを待って、「冷奴じゃ足りないでしょう。真琴さんの空豆ご飯を食べませんか?」と、提案したが、「いえ、家に帰って、妻が作ってくれた最後のメシを頂きます。本日は本当にありがとうございました。冷奴、美味しかったです」と、頭を下げて帰っていった。
ホッとした。
「なんだか、腹が減った。真琴さん、空豆ご飯のお替りを」
広瀬につられて、満里奈も食べたくなった。
「私も!」
「はいはい。お待ちください。すぐにご用意できますから。その前に、お酒をお持ちしましょうか?」
「そうだな。気分もいいし、飲んじゃうか」
まだまだ席を立てそうになかった。
「はい、お待ちどうさまです」
空豆ご飯が出てきた。
「うんまい!」
「今頃、中尾さんも奥様手作りの空豆ご飯を食べているのかなあ」
満里奈が、しんみりした。
「食べているさ。きっと」
ほんのり塩味の空豆ご飯。中尾の口の中で涙の味になっているかもしれない。
美味しく食べていたところ、真琴が熱い眼差しで広瀬を見た。
「終始、とても素敵でした。最後のところなんか、興奮しました」
真琴は、あのドキドキする感覚を忘れられそうにない。
広瀬を褒めているのに、横の満里奈が偉そうに言った。
「そうでしょう。この人の謎解きって、病みつきになるのよね。でもでも、だからと言って、彼に手を出したら承知しないわよ」
最後にけん制を忘れない。
満里奈は、広瀬の腕をがっちり掴むと、真琴へ当てつけるようにしなだれた。
推理中は女性同士で共闘している感じだったのに、それが終わった途端、広瀬を巡ってバチバチと火花が散った。
「ねえー、ウズちゃんからも何か言ってよお」
広瀬が涼しい顔で答える。
「僕は、旨いメシと推理があればいい」
「それだけ? んもう! マイペースなんだから!」
怒った満里奈は、広瀬の頬を親指でグイっと押し上げた。
了
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