序ノ章

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序ノ章

「本当に・・・面倒なのよね。」 ツインテールの白髪の幼い少女が手に一冊の本を持ち、背伸びをしてその一冊の本を本棚に戻す。 声は容姿に合わず大人っぽく、澄み切った声だがどこか冷徹さを漂わせている。 「ねえねえ、エマ。 アレ、なあに?」 ツギハギだらけで耳がだらしなくだらんとしたうさぎの人形が一つ下の階を指差す。 「行ってみましょう。」 中央の階段を降りて一つ下の階へと行く。 ここは大きな図書館。 周りをぐるんと本棚が囲んでおり、上も下も無限にフロアが存在する。 「コレ!なあに?」 先程うさぎの人形が上の階から見ていたモノ・・・。 明らかに人の形をしているそれが少しずつゆっくりと起き上がる。 「エラーの集積体ね。 ここに人間なんかいるはずないもの・・・。 イレギュラーだわ。」 起き上がりキョロキョロとあたりを見回す黒髪の幼い少年を冷ややかな目で見つめる幼い少女。 「あ、あのう・・・ここはどこですか?」 幼い少女の言葉に幼い少年は首を傾げながらも恐る恐る訊ねる。 「ビブリオ・・・図書館よ。」 少女は冷たく言い放つと 少年の胸に手をかざし、鋭い剣を生成して少年の胸に突き刺そうとした。 「図書館って・・・うわあ!?」 少女が突き刺そうとしたその剣に少年は驚いた。 しかし一番驚いたのはその剣が貫通せずすり抜けたことだった。 「なぜ・・・? エラーの集積体ならこれで殺せるはずなのに。」 「カレはエラーじゃないね。 ヒトだったモノかもしれないねっ?」 ふむふむと少女は人形の言葉に納得した様子だが、少年だけは呆然と立ち尽くしていた。 なぜなら先程少女に殺されそうになったからだ。 「い、いったいどういうことですか? なぜ今僕、殺されそうになったんです?」 「この図書館は精神世界・・・。 この世界ではさまざまな世界に生きた人々の記憶を管理する場所。 最近どうも記憶の欠損・・・私たち二人はエラーって呼んでるんだけど、そのエラーが多発しててね? もしかしたらそのエラーの多発があなたみたいに人型の集積体になってるんじゃないかと予測して殺そうと思っただけ。」 少女はそう言うと少年の胸をすり抜けた剣を引き戻し消滅させた。 その光景に少年は漠然としていた。 「そうでしたか。 実は僕、記憶なくて・・・どこにも行くアテもないんです。」 少年はそう言うと俯いて少し悲しそうな表情をする。 自分が何者かも分からず、しかもこの精神世界に居場所もない。 そんな少年に人形はある提案を持ちかける。 「それならお手伝いしてもらお。 君の記憶も多分このビブリオにあると思うし、それを探すついでにエマのお仕事手伝うってのどお?」 「お手伝い? 何したらいいの?」 少年はヒトの言葉を喋るうさぎの人形を見て、内心驚いていた。 しかし先程、少女に殺されそうになったせいか常識的な考えは捨てた方がいいなと判断し、人形に優しく声をかける。 「簡単なことさ? 記憶を見るんだよ。 ここにはたくさんの人の記憶の本がある。 エマのお仕事は本の整理やエラーの確認なのさ? つまり一つの記憶・・・いやあえて言うなら物語を一緒に見るんだ。」 なるほどと言いながら少年は人形の言葉に対してこくこくと頷く、 自分の記憶を取り戻すためにも必要なことだろうと少年は思い、決心する。 「わかりました。 僕に出来ることならなんでもしますから。」 「もう・・・ラビルったら、勝手に決めちゃって。」 少女は深いため息をついて、少年に手招きする。 ついてこいと言わんばかりに一歩歩き出す。 少年も少女の後についていく。 「私はエルマ・・・ここの管理人よ。 この子はラビル。 私の補佐で記憶を本に変えたり、エラーを正常に戻すお仕事をしてるわ。 あなた、名前は?」 コツコツと少年と少女の足音が鳴り響く。 ラビルは背中部分にある小さなコウモリのような翼で飛んでいる。 「記憶がないので・・・わかりません。」 「アルド・・・。」 「え?」 「今日からあなたはアルドよ。 いいわね?」   「・・・はいっ!」 エルマがそういうとアルドは嬉しそうに微笑む。 一方エルマは表情ひとつ変えずにどんどん進んでいき、ある本棚の前で立ち止まる。 「最初のお仕事はこの本よ。 さあ、一緒にいきましょう・・・本の世界へ。」 エルマが本を開くと周りが真っ白になった。 エルマたちは記憶の本の世界へと吸い込まれていった。
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