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彼の『食事』について、尋ねてみたことがある。
ヴァンパイアというからには血を吸うのだろうと訊いてみたら、彼は一度うなずいてから、
「でもいまは人間の血は吸ってないんだ」
と首を横に振った。
彼が言うには、死にかけの野生動物を見つけて、その体から血を分けてもらっているとのことだった。
動物の血って美味い? って尋ねたら、いつもの笑い方で彼はほろりと唇をほころばせて、また首を振る。
「あんまり美味しくないよ。人間の血が、一番美味しい」
じゃあ僕の血を少し飲むかと、袖を肘まで捲くって彼の前に差し出したら、冷たい手でやんわりと手首を握られた。
「要らないよ」
言葉とともに、袖の位置が戻された。
ちょっとぐらい吸ってもいいけど、と僕が重ねて促したら、彼は艶やかな黒髪を揺らして僕の申し出を拒絶した。
そのときの僕はムっとして、機嫌を損ねたのだけれど。
しばらくしてから彼がぽつりぽつりと教えてくれた。
ヴァンパイアにとっては、愛するひとの血が一番のごちそうなのだ、と。
「きみの血を飲んだら、止まれなくなる」
きれいな顔にさびしい色を浮かべて、彼はそう言った。
それって僕のことを愛してるって意味? って訊いてみたら、彼は。
あのひとの血族はみんな愛しいよ、だって。
バカみたい。
もうとっくに居ないひとに、まだそんなにも気持ちを残してるなんて。
バカみたいだ。
ご先祖様のことがそんなに好きだったなら、仲間にすればよかったのに。
物語で読んだヴァンパイアは、血を吸って仲間を増やしていたから。
彼もそれができるのではないかと思って、尋ねてみたら。
急に彼の目から大粒の涙がこぼれだしたから驚いた。
「僕はもう、それはやらないって決めたんだ」
べそべそと泣き出したヴァンパイアが、涙声で昔話をする。
僕のご先祖様が死んで、その子どもが死んで、そのまた子どもも死んで……。
たくさんのいのちを見送ってきた彼は、ある日さびしさに耐えきれずに、仲間を作ろうとした。当時彼と過ごしていた僕の……ひいひいひいおじいちゃん? になるのかな? は、彼を受け入れて、いいよって言った。
きみの仲間にしてくれよ、って。
ヴァンパイアが仲間を増やすための条件は、僕が想像しているよりもずっとずっとずっと難しいみたいで、彼は結局、儀式に失敗した。
僕のひいひいひいおじいちゃんを殺してしまった、と彼は僕に懺悔した。
泣きながら、ごめんなさいごめんなさいって頭を下げてくる。
僕にとっては顔も名前も知らないような遠い昔のひとのことなのに。
忘れる、という機能が備わっていない彼の脳には、すべてが刻まれているのだ、と。
彼の話を聞きながら僕は痛いほどにそのことを理解した。
ご先祖様たちと交わした会話や、声のトーン、そのときに吹いた風の香り、表情、あらゆるものがひとつも失われることなく、彼の中に蓄積していて。
だからこそ彼は、ちょっとした昔話でこんなにも涙を見せるのだ。
まるで、いま初めて味わった痛みかのように、ひとつひとつの思い出を取り出して、何度でも喪失の瞬間を繰り返す。
なんてかわいそうな生き物なんだろう。
僕は苦しくなって、泣き続けるヴァンパイアを抱きしめた。
すがりついてくる体温は、やはり冷たくて。
僕と彼はまったく違う生き物なのだと、痛感した……。
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