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かまわず舞は進む。玄関ホールへ戻り、奥へ。突き当りのドアを開ける。
入室すると、ソファに鎮が居た。ライトグリーンのブラウスにデニムパンツ。
出た。やっぱりコイツのせいだ。
「ごめんなさい」いきなり舞は謝った。「大変な事をお願いしなきゃいけない」
「わかってる。妹サンに聞いてるし」
方舟プロジェクトが次の段階に進むのだ。
舞と鎮。並ぶとよく似ている。だが、同じ目鼻も、表情筋の僅かなバランスの差で、一見別人の顔を作っている。光と影。天使と……
「アイツ、止まっちまったぞ」親指でドアの外を指し鎮に言う。「なんで初則を一緒に呼んだんだよ?」
「彼に来てもらったのは、定点になってもらうため」
「は?」
「まあ座んなさいって。順番に話すから」
双子姉妹に向き合って腰を下ろす。窓のカーテン越しに槌似山が見える。
四つのティーカップに、舞はポットから紅茶を分けた。ボクの隣、初則が座るはずの場所にも、湯気の立つカップを一つ置く。
持って来たクッキーと、別に用意されたチョコレートの箱が開かれて、テーブルに並んでいる。
鎮の唇が、またロクでもないことを言い出すのを待つ。
唇はゆっくり語り始める。
「国道と同じシールドを、この家の周りに展開できるの。家に入ってもらうためにオフにしたけど、さっきオンに戻した。シールド付近では事象が揺らいで、同調できないモブさんたちはフリーズする。だから藤木クンは止まった。で、ここからが仕事――」説明の順序を考えるように間をおく。「花生 透。アタシたちの父親として設定された男は、この世界の観測者だった。タダちゃんの前任者ね。父が観測することでこの世界は流れていた。逃亡計画という裏切りに記述者は気づいて、父は処刑された。回線の遮断が微妙に間に合わなかったの。即死は免れたけど、もう意識はない。だから──」ボクの目をまっすぐ見つめる。「これから、方舟のインターフェイスを探しに、花生 透の意識の底へ潜航する」
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