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最奥には等身大の裸像が立っていた。
折れたギリシャ神殿の石柱みたいなのが、大地から斜めに生えている。そこに女性が背を預けている。かぶさる男性の躰を受け止め、口を重ね、抱擁している。女性は右の足裏を石柱に当て片膝を立てている。
二人の男子高校生は、その像の前で固まった。
エアコンの微風が首筋を撫でる。
「舞ちゃんに似てないか、これ」初則が絞り出すように言う。「そう思って見れば、絵も胸像も、ぜんぶ舞ちゃんに見える」
気づいていた。言葉にするのをためらったのに、初則があっさりぶちまけた。
作品の少女たちは髪が腰に届くほど超ロングで、すぐには気づかない。が、顔立ちには舞の面影がある。
陳列された無数の舞が、二人の訪問者を囲んでいる。着衣の作品は舞だとしても、裸像については認めたくない。父親が娘の裸像を造ったりするものだろうか?
少女のカタチを空間に固定しようとする男の情念は、あまりに激しく、そして不穏だ。情念は、そのまま作品たちに取り憑りついて、この場に残留している。
「舞ちゃんのお母さんじゃないのか。離婚したらしいけど」そうあってほしいと願い、言う。
「娘とそっくりなお母さんか。ありうる。じゃあ、男は誰だ? 先生以外ってことはないよな」
重なる男性の顔は曖昧だ。わざと起伏を粗くして、ぼんやり目鼻が彫られている。特定する個性を与えられていない。それは何を意味するのか……
「これって、やってるよな」初則は呟く。
「うん、やってる」ボクは同意する。
生々しさが胸を圧迫する。イヤラシくはない。崇高ささえ感じる。これがゲイジュツってものか。
床のプレートに記されたタイトルは、〈再生〉。
初則は腰をかがめて像の股間を覗く。
「オマエ」
「ふむ。ソコまでは造り込んでないか」身を起こしてヤツは言う。
「ホントか?」今度はボクがしゃがみ込む。
ソコはつるりと何もない。何故かホッとする。
「何してるの?」真後ろで舞の声がした。
ボクはしゃがんだ状態で固まった。彫像のように。タイトルはさしずめ〈覗き込む少年〉。
「ゴミが落ちてたから拾おうと思って、っていうか、小銭を落として――」
「にゃははは。落とし物は見つかったかい? 只見クン」初則は愉快げに笑う。
このやろう、後でころす。
「見えないところまで気になる?」舞の唇は微笑む。が、目はそうじゃない。
「いやあ、あまりに迫真の出来で――」逆に自分の首を絞めるような言い訳をしてしまう。バカだ。
「お茶飲も。こちらへどうぞ」
背に汗を浮かして展示室を出る。
あれ、と思った。後続の気配がない。
振り返ると、初則は口を半開きにして静止している。にゃは、の途中でフリーズしたのだ。国道のときと同じホログラム映像──
頬がピリピリする。静電気だ。そういえば高周波音がしたような……
事象が揺らいでいる。
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