06 無魔

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「ボクが?」唖然として自分を指さす。 「が必要なの。観測者が観ないと物語は進まない。アタシも一緒だから心配しないで」  なんて役だ! ボクは補助記述(サブ)マシンを心底恨んだ。  (しず)は、菓子箱に並んだチョコレートをいくつか口に放り込む。「チョコ食べといて。脳がブドウ糖消費するから」  ボクは三つまとめて噛み砕いた。ムースの違う、個別に味わうべき高級品なのだが。  (しず)は立ち、どこかを押して、部屋の壁をスライドさせた。  隠し部屋が現れた。  そこには異様な形の機器が積み上がっている。この世界のデザインではない。無秩序な曲面が構成するコンソールだ。  機器の横のラックに、場違いに地蔵が置かれていた。50センチほどのミニサイズだ。  地蔵は丸い顔の中から、穏やかな目でボクを見つめ返す。 「この子が補助記述(サブ)マシン」(しず)が紹介する。「現地使用型の訂正用端末。ホントはただの立方体だけど、アタシが着ぐるみをデザインしてあげた」  資材庫の脇に立つ地蔵がモデルかもしれない。似ている気がする。 「オマエのセンスからしたら、上出来だ」  この地蔵がボクを書き出した──  地蔵の静かな瞳に見つめられるうちに、さっき恨んだ自分を恥じた。  楽しくてステキな16年をもらった。この地蔵からだ。やさしい人たちに囲まれてボクは育った。恨む筋合いはない。  ボクは託されたのだ。この世界(ものがたり)の未来を……   躰の芯が熱くなる。  部屋を区切るクリーム色のカーテンを、舞がそっと引き開けた。  ベッドがある。老人が寝ている。気配にも気づかなかったほど存在感が無い。        無毛の頭部。頬は削げ目は落ち窪んでいる。死体かと思うほどだ。が、よく見れば、胸部は弱い上下をくり返している。 「父なの」舞が言う。  そんな…… 絶句する。どう見ても祖父以上だ。百歳さえ超えて見える。  シミの拡がる頭頂にはコードの束が貼り付いていた。色分けされたコードの本数は数えきれない。フックを通り床を這って、見当もつかない機器に繋がっている。
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