聖母の絞首

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 うちにいるのは、私の首を締めるただの人間だ。  昔は、この人をマリア様か何かと思っていたらしい。 「おはよう」  朝に顔を合わせると必ず、母からこの一言を言ってくる。私は返事とも言えない返事を返して頷くだけ。目は合わせない。 「今日も元気よく行こう!」  キッチンで上機嫌にそう言う母は、反応が返ってこないことにも慣れたらしい。私は無関心を装いながら、1人で鼻歌を歌う母に無性にイライラしている。  今日はハズレの日だ。母の無意味なテンションが気に触るかどうか。それは、日によって変わった。 「ご飯食べる?」 「食べる」  当たり前でしょう。そうやって、なんでも言い返したくなる。  母の前では、理性はわずかしか働かない。だから極力言葉を少なくし、表情も変えない。そうやってシャットダウンする。  家には、ほとんど私と母の2人しかいない。父は朝早く仕事に出て夜遅くに帰ってくる。反対に私は長期休み中で、一日中家にいるしかない。  だから、私は広々としたこの一軒家の中で、母と窮屈な時間を毎日過ごしていた。
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