47人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
31 とりあえず帰還しましたが...
魔物の結界が解けると、なければ何の事はない、森の出口はすぐそこだった。でも、すぐに帰るのは勿体ないので、妖精さんに聞いたことを便りにツヴェル湖の周りの草をひとしきり採取して、空っぽになったカタツムリのリュックに摘めて帰途についた。
途中、ボーゲさんもルノアも黙り込んでる。
せっかく魔物を退治したのに、暗い。暗すぎる。
「ね、これギルドのおじさんに預けたら、一杯飲みに行こう?祝杯上げよう?」
「う、うん.....」
ノリが悪いぞ、コラァ......。
かく言う私も少し気になっていた。ルノアも転生者なんだろうか?まさかねぇ...。あいつはあっちの世界で元気にやってるはずだもん。
「ただいま~」
なんとなく力無くギルドの扉を開けた私達にを出迎えたのは、支部長のおじさんと仲間、そして辺境警備隊の副隊長さんだった。
「やりましたね、隊長代理!」
真っ先にルノアに飛びついてきたのは、副隊長さん。
「隊長が目を覚ましました!冒険者の人達も!他の人達も!」
「よくやった、イツキ偉いぞ!」
支部長さんが虎の肉球で頭をグリグリ撫でてくれた。
「ありがとう、おじさん」
私はにっこり笑って、支部長さんをハグ。サイラもボーゲさんも握手攻めに会っていた。
「お疲れさま、イツキちゃん」
アライグマのお母さんにリュックを渡して、中の薬草を見せる。
「これ、薬草らしいんだけど、使える?」
アライグマのお母さんはニコニコして、嬉しそうに答えてくれた。
「ツヴァル湖のアネッタ草は万能薬なんだ。ヨフィラもターガも貴重な薬だ。魔物が出てから取りに行けなくて困ってたんだ。助かるよ、イツキちゃん」
そうなんだ。妖精さんにお礼を言わなきゃ。
「魔物が出てからどれくらいになりますか?」
考え込んでいたルノアが尋ねる。
「十年近くになるね。最初の頃は森に入った冒険者が戻ってこないんで魔獣にやられたと思ってた。そのうち薬草取りに行った人が戻ってこない.....って騒ぎになったんだ。それで探しに行ったら、みんな森の中の廃屋に倒れていて、息はあるし、怪我も無いのに、眠ったまんまで起きない。挙げ句は魔物退治に行った警備隊の人達まで魔物に眠らされてて......」
「で、生きてたんですか?」
ルノアが不思議そうに訊いた。
「ウチのギルドにはお抱え魔導士さんがいるんだけど、魂が抜けてるって.....で死なないように秘術を施してもらってたんだ」
アライグマのお母さんが説明してくれた。魔導士さんて、本当にいるんだ。
すると奥の方の扉が静かに開いた。
「よくやった若者よ」
顔を出したのは、白い髭を長く垂らしたコウモリの獣人さん。黒いローブを引き摺るようにして近寄ってきた。
「魔導士さん、知ってたんですか?魔物のこと」
サイラが詰め寄ると、事も無げに一言。
「わしゃ口下手でな」
そこかよ!
「でも、勇者に知恵を貸すとか......」
「貸したぞ?」
白い髭を片手で弄りながら、魔導士さんいわく、
「あいつらは皆、脳筋でのぅ.......。儂の話などロクに聞かなんだのじゃ。それに...」
「それに?」
私をついつい......っと皺だらけの指が手招きした。そして、小さな声で言った。
「変わり者の転生者達が、解決してくれるとお告げがあった」
「変わり者って私達のこと?」
地獄耳のサイラが突っ込むと大きく頷いた。
「転生者だけのパーティーなど他にはなかったからのぅ......」
ー転生者だけの...パーティー...じゃやっぱりボーゲさんも、ルノアも......ー
「飲みに行こう!」
突然、サイラが大きな声で叫ぶように言った。
「いいでしょ、支部長さん?」
「あぁ、酒場には俺のツケにしておくから、好きなだけ飲んでいいぞ」
太っ腹な支部長さんの豪快な笑いを背中に私達はルノアとボーゲさんを引っ張ってギルドの外に出た。
「素面でする話じゃないよね」
ぽそっ......と囁いたサイラの横顔がやけに優しかった。
最初のコメントを投稿しよう!