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※番外編※ 王様の呟き
ここはキャラット国の王都、カルカンにある王宮の執務室......。
「なかなか、順調のようですね」
書類に目を通す王様に山羊の侍従長がお茶を淹れながら微笑んだ。
「本当に仕事好きな子だなぁ......イツキくんは」
獅子の王様は半ば呆れながら笑った。
「産休制度、育休制度の導入の件、ですか。如何がですか?」
「父母両方に均等に認めるべき......か。検討する価値はあるな。」
侍従長はベリーのタルトを頬張る王様の優しげな眼差しに承認を決めたらしい空気を読み取り、内心、安堵していた。黒豹の王妃さまがいたく感動して、力技でも承認させろと迫られていたのだ。
「いい試みではありますね。出産機会均等法も出来ましたしね」
肉食系でも草食系でも互いに合意があればどちらが子どもを産んでもよい.....それによって職業上の差別はしない、という獣人社会では実に画期的な法律だった。
そのため、肉食系獣人にも産休を与えるのは大事な国民の権利の保護になった。
「日本人がワーカホリックというのは本当だったんだな」
王様は立派なタテガミについたお菓子のカスを払いながら言った。
「雇用機会均等法は私の国でもありましたよ。日本ほど治安は良くありませんでしたが、女性の権利が尊重されてました」
侍従長は静かに笑い、お茶を足した。
「メリエ、君は何処から転生したんだっけ?」
王様は机に活けられた薄紅の大輪の花を眺めて言った。
「私はフランスという国にいました。売れない画家でしたけどね。芸術の都でした」
侍従長は遠くを見つめた。今はもう遥かな祖国を懐かしむような柔らかな眼差しだった。
「王様はいずこに?」
ふっ......と王様の顔に翳りが差した。
「砂漠の名もない国だよ。今はもう無いかもしれない。......随分と昔のことだ」
「そうでしたか......」
王様の手が、静かにカップを置いた。
「平和で豊かな国に憧れていた。そんな国を作りたかった......ここに転生して、改めて思った」
王様は改めて机の上の書類を手に取った。
「夢は、叶うもんだな......」
「私も、そう思います」
侍従長はモノクルに触れて微笑んだ。
「どういう形でも、人に認められて人に尽くせることは幸せです」
カタリ.....と小さな音をたてて、飾り棚の宝石箱が開いた。
「おや......また地球からの転生者が生まれたようだ」
「今度は何処から来たのでしょうね?」
「わからん......が、楽しみだな。この世界には地球で孤独だった魂が時折、転生してくるが、みんな個性的で、みんな愛しい。......ここで幸せを見つけて欲しいと思う」
「イツキくんのように......ですか」
「そうだな」
王様は庭先で無邪気に遊ぶ子供達ににこやかに手を振り、微笑んだ。
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