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9 今さらの(元)女子会
あれから腐カワウソもといサイラは頻繁に家に来るようになった。スイーツと原稿と墨汁らしきモノを持って。
なぜなら、私はルノアに日没以降の外出禁止という猫にあるまじき中坊のような門限を言い渡され、集会にいくのもNG にされてしまったからだ。
猫の集会に出れない猫は猫じゃなーい!
まぁこの世界の猫の集会は、ぶっちゃけ婚活パーティーだから、ろくすっぽ行った事無いけどさ。既婚の猫達の集会にはまだ入れてもらえないし......文字通りの井戸端会議だから。
今日も今日とて、私の部屋でペタペタカリカリ、妖精界コミケに向けて鋭意、薄い本を制作中なのだが、転生者の少し先輩のサイラには、色々聞きたいこともある。
まずは、なんで筆もどき持ってベタ塗ってんの、私。古くね?
「ねぇねぇ、なんで原稿手書きなの?クリスタとか無いの?」
サイラは後ろに束ねた髪をブンブンさせて、一心不乱にペン入れをしながら、顔も上げずに答える。
「無いわよ~。PC 自体無いんだから~」
うん。無いんだよね、PC 。PCがあれば、私の華麗なタイピング・テクニック見せつけてやるのに~、とよく思う。ちょっと悔しい。
でも印刷所はあるらしい。カメレオン獣人が経営してて、発色がキレイなんだとか。カラーページに力が入るってもんよ、とサイラは言う。
「PC あったら、楽なんですけどね~」
と相槌を打つのは、サイラが連れてきた兎獣人のミールちゃん。やはり転生者で、前世はアニメオタクのコスプレーヤーさんだったんだって。今の仕事は洋服屋さんの店員さん。可哀想に前世ではストーカーに追いかけられて刺されちゃったんだって。うるうる.....気の毒だ。当時十九才だって可哀想過ぎる。警察は何をやってたんだ!
「まぁこっちに転生してきてからも色々あったんですけどね...」
なんせ兎獣人は可愛い。真っ赤なつぶらな眸に真っ白なお肌、ピンクの頬っぺ。体も小柄で、とにかく可愛い。アイドルさんのスカウトがあったというのも頷ける。
「もう懲りごりですぅ~」
という彼は、パートナーがいて、七時きっかりにお迎えが来る。さぞかしイケメンな...と思いきや熊の獣人のおっとりしたお兄さん......て言うより、もはやオジサン。まぁそこそこシブオジではある。
何やらミールちゃんがチンピラに絡まれていたところを助けてもらったのがご縁だとか......。
「え、でも年齢違い過ぎない?」
とおそるおそる訊いてみる。ミールちゃん、どう見ても若い。パートナー持ちだから、私よりは少しも年上だろうけど。
「え~、私、三十二才ですぅ。皆さんよりずっと年上ですよぉ」
美魔女(?)でしたか。失礼しました。
でもって知りたいのは、転生者だと思い出したきっかけ。
「私は川で溺れそうになった時」
サイラ、あんたカワウソじゃなかったっけ?まぁ、塀から落ちた私も人の事は言えないが。
「私は、暴漢に襲われそうになった時ですぅ」
うぅ...ミールさん。その時に助けてくれたのがパートナーさんだったそうな。ごちそうさま。
「それで、他にも転生者っているのかな?」
ポツリと口にすると、サイラが枠線引きながら言う。
「いるんじゃない。たぶんボーゲもそうだから」
書き上がった原稿を魔法の温風で乾かしながら、サイラが答えた。魔法あるのよ、ファンタジーだから。母さんは煮炊きに使ってる。私は遅刻しそうになった時、風魔法で駆け込んでる。まず無いけどさ、ルノアじゃないから。
「ボーゲさんも?」
とまん丸お目々でミールさんが突っ込む。
「うん、時々、寝言で『ラノベは正義だー!』って叫んでるからね。本人は思い出してないけど」
きっとオタクなラノベ作家さんだったんだね、ボーゲさん。
「でもでも......」
ミールさんが顔を少し赤らめて言う。
「その......ショックだったじゃないですか?転生思い出した時、あの.....男の子になってて.....」
「「別にぃ」」
私とサイラが口を揃えて言う。
「実際の造形とか反応をリアルに検証できて、やったー!って思ったわよ」
さすがはBがL する漫画家さん、プロ根性に拍手。
「社畜ちゃんは、驚かなかったの?」
「驚いたわよ。でも男になりたいとしょっちゅう思ってたから......」
女はお茶汲み、職場の花、女はいい人探して早く結婚しろetc. 雇用機会均等法はあったけど、職場のおっさん達の本音はカビ生えて干からびた化石時代まんまの女性蔑視。大企業に入ったはいいけどコピー取りとパシリばっか。それが嫌で転職した先にアイツがいたのよね、同期で。
「私はぁ、ショックだったけど、もうこれで男の人に追いかけられなくて済むかなぁ...と」
でも、結局、私たちを囲む環境は変わらない。○○ついてても、弱い獣人は強い男に押し倒される身の上。
「い、いやだー!」
「社畜ちゃん?」
「絶対、出世してやるうぅ~!」
懲りないねぇ.....というサイラの生暖かい眼差しと、ミールちゃん、もといミールさんの拍手を受けて、思いっきり雄叫んで、
「にーちゃん、うるさい。俺、勉強してんのに!」
と、ちゃむに叱られた私でございましたよ。
でも、転生者同士、スカイツリーとか渋谷とか汐留の話や流行っていたスイーツとかの話が出来るのは嬉しい。女子(?)会って楽しい、って初めて思った。
そんでもって、自身の推しや萌えを熱く語る彼(彼女)らを見てると本当に嬉しそうで、楽しそう。......そんな生き方もあったんだ、と思うと自分がちょっぴり寂しい。
そしてベッドの中で、
ー他にも転生者いるのかな....ー
とふと思ったりする(元)オンナの宴の後なのでした。
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