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12 目指せ、新天地!なんだけど...
半分ベソかきながら見送る母さんとちゃむ、ロアに大きく手を振りながら、父さんの操る馬車、いや馬みたいな魔獣の引く幌付き荷車に乗り込む。気分は西部劇。思わず、前世で大昔に流行っていた古い映画の主題歌、思い出しちゃう。ーローレン、ローレン、ローレン~♪ーて、あれローハイドってタイトルだったかな?白黒の再放送だったわ、確か。マジ古い、でも格好良かったんだもん。
ウチの父さん、あの西部劇の咥え煙草のイケメンに良く似たイケオジだからさぁ~、似合うのよ、西部劇。周りが砂漠じゃなくて、それなりの街道沿いの草原だったりするんだけどさ。
なんせ初めての独り暮らし。それなりに父さんも心配して私と荷物を運んでくれることになった。ちゃんと有休申請した?お父さん。
前の任務から帰って、次の任務まではお城待機だから、行ってやりなさい、って諜報部長さんの有り難いお言葉をいただいたんだって。ん?諜報部?いや考えないことにしておこう。
でも、激務だったんだね。なにげに傷増えてるよ。担当する外交官さんはしばらく報告書つくりだから、父さんはお城で待機してるよりはいいって、連れてきてくれた。
外から眺める景色も新鮮。ほら、キレイな大きな川があって、風車が回ってる。白い漆喰の壁が眩しい。ロバみたいな魔獣が荷物を振り分けにして、イタチ獣人に引かれて通り過ぎる。ん~#長閑__のどか__#だ。安らぐわ~。これからのお仕事生活に力も滾るってもんよ。
ふっと馬車もどきの中に目を移す。と薄暗い中に、爛々と輝く、勤労意欲を削ぐジト目......。
「なんであんたまでいるのよっ!」
「お前が心配だからだっ!」
そう目の前にいるのはルノア。私がキャネット・シティに単身赴任を決めたと知るや否や、家に怒鳴り込んできた。怒鳴り込んできただけならいいけれど、そのまま、私の部屋に押し入って、旅支度中の私を襟首ひっ掴んで押し倒しやがった。
『何すんだよっ!』
必殺○蹴り!.....と思ったらかわされて、ひっぱたかれた。ぶったねっ!父さんにもぶたれたことないのに~!痛いじゃないよっ!
『何考えてんだよ!単身赴任なんて、俺は許さねぇぞ!』
『だから、何!あんたの許可なんて要らないだろっ!』
暴れる。暴れる私、ひょっと見ると、ルノアの尻尾、思いっきり立ってる。目が血走ってるし....く、喰われる!こいつヤバい。まじヤバい。
『どけよ!』
『駄目だ!既成事実つくってやる!』
ヤダ、ヤダ、ヤダ!酒と煙草と男は二十歳になってからなんだい!未成年に暴行働くと、罪重いんだぞ!.....あ、この前成人したんだっけ?...とにかくヤバい。喰われたくないよ~!
『止めろよ!離せっ!』
力いっぱい鼻先を押し戻すけど、なんでコイツこんなに力強いのよ。ヤバい!喰われる!ギュッと目を瞑った。...とその時よ、ばたんっ!とドアが開き、力が抜けて私の上に倒れ込むルノア。そろ~っとそちらの方に目をやると、フライパン持ったちゃむが、尻尾と全身の毛を逆立て仁王立ち。
『にーちゃんに何すんだ!』
ちゃむ、ありがとう。ナイスジョブ!あんた、本当にいい子だわ~。ついでに、これ退けてくんない?メッチャ重いんだわ。
結局、ドタバタ騒ぎに階段登ってきた父さんに担がれリビングまで運ばれた、気絶狼。母さんに手当てされながらおんおん泣きやがった。遠吠えウルサイ!近所迷惑だから止めてよ!
『部屋に行ってなさい』
と父さんに諭され、私は自室に退散。父さん母さんと大人の話し合いが夜更けまで続いた。で、その結果がコレ。
コイツ、辺境警備隊に志願しやがった。キャネット・シティは王都からそれなりに近いけど、少し外れると湖沼地帯と深い森が続く。サイラのお得意様の妖精がいっぱいいる妖精界との隣接エリア。おかげで薄い本、いっぱい持たされた。
『いや~助かるわぁ。ペ○カン便、送料上がっちゃってさ~』
さすが、商売上手。まぁそれだけ治安が悪くなってるわけだけど。それなのに、コイツときたら、家に乗り込んできた次の日に近衛隊長に配置替えを捩じ込んだって。近衛隊って武官の出世コースよ。キャリアしか入れないのよ。ねぇ、あんたバカ?バカなの?
んでもって、私の出発日、ちゃっかり自分の荷物持って、当たり前のように、父さんの幌馬車もどきに乗り込んだわけ。
「いいだろ、これから宿舎住まいで、そうそう顔も観れないんだから」
一時の勢いで出世を棒に振るバカの顔なんか見たくありません。.....でも、あんた、そんなに私の事、好きなの?
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