13 大草原の小さ...くない家

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13 大草原の小さ...くない家

 そんなこんなで、キャネット・シティまで片道三日。  夜は夜営。父さんとルノアが交代で見張ってくれてて、私は幌馬車もどきの中でぐっすり熟睡。父さんとルノアは、テントを張ってお泊まり。宿屋もあるにはあるんだけど、部屋割りが...ねぇ。  焚き火の火を囲んでの食事もなかなか。父さんが仕留めた魔獣と途中の村で買った野菜。それと母さんが持たせてくれた生姜パン。乙女の頃に憧れた某名作少年少女ブンガクの、あの生姜パンってこんなんなんだ~と感動しながら、モグモグ......。  ルノアは父さんを気にして、あまり喋らないから、とっても静か。  とにかく王都を離れると夜は星がキレイ。前世のアパート暮らしでは絶対見られない満天の星。地平線まで光の粒が散りばめられていて、うっとりしてしまう。  幌馬車の中からほぅ.....っと星を眺めていたら、母さんやちゃむ、ロアの顔が浮かんできた。ロアってば、もう私にしがみついて、 『にーたん、行っちゃヤダ!』 って大泣きしてたな、ちゃむも一生懸命、眼を擦ってた。.....なんだかホロッ。  兄ちゃんは、必ず出世して、いっぱいお土産持って、故郷に錦を飾るからね...。  てなにげにセンチメンタルになっていたら、幌の影から不穏な人影が......。 「眠れないのか?添い寝してやろうか?」  ルノア、本当にあんたバカね。後ろで父さんが睨んでるわよ。 「何やってんだ、お前」  ほら、ド突かれた。  父さんはもともと、この結婚話にはまったく乗り気じゃなくて、公爵さまと王様の仲介でしぶしぶ了承したの。だから、父さんは私、もとい俺の味方。  この世界の結婚て、獣性の強い獣人......まあ獅子とか虎とかは大概、獣性の弱い獣人を娶るのが普通なんだけど、猫科ってビミョーな立ち位置で、もう相手との獣性の強弱で決まるの。だから王様はお妃様をバトルしてゲットしたわけよ、力業で。  私の場合、あのバカ狼に見つかった時、まだ子どもだったから、バトルにもならなかった。相手は狼よ狼。しかも狼族の中で最強の灰色狼。勝てるワケが無い。トホホだわよ。でも、私だって半分は山猫。獣性、強いんだから。  だから、なんとかブッちぎって自立したい。いや、むしろ嫁さん欲しい。それには出世して稼げるようにならないと.....。 「バカ」  はい?誰か私のことバカって言った? 「夜中に拳握りしめて、何ミャウミャウ言ってんだよ。襲うぞ」  ルノアが呆れた顔でこっち見て溜め息。 「な、何も言ってないっ!」 「心の声がダダ漏れなんだよっ。いい加減、つまんねーこと考えるの、止めとけ。無駄だから」 「つ、つまんない事なんかない。真面目に仕事頑張ろうと思ってるだけだからっ」  反論するけど、尻尾がピクピクしちゃってる。静まれバカ尻尾。 「まったくなぁ......」  ルノアは、尻尾の毛を逆立てる私に溜め息をつき、くるっと背を向けて、頭をポリポリ掻きながらテントに戻っていった。なんなのよ一体、ムカつく。    そんな珍道中も三日後、キャネット・シティの入り口に差し掛かり、まずはお祖母ちゃんの住む、お父さんの実家へ。 「おやおやおや、イツキちゃん。久しぶりだねぇ~。大きくなって~」  ミーアキャトに相応しく、背筋のぴんと伸びたお祖母ちゃんが門のところまで、にこにこ顔で出迎えてくれた。なんか口調とか前世のお祖母ちゃんに似ていて、なにげにホームシック。  羊の獣人の執事さんに荷物を預けて、門から歩くことしばし、キョロキョロ...前世のお祖母ちゃんの田舎の家も大きかったけど、なにこの家、デカくない?前世の私のアパート、三つくらい入るよ。 「父さんて、もしかして金持ちの息子?」 って思わず訊いたら、お祖母ちゃんがケラケラ笑った。 「無駄に大きいだけだよ。代々多産で子どもいっぱいいたからねぇ~」  それにしても凄いです。造りはアメリカの開拓時代っぽいんだけど、バカでかい。まぁ猫は多産だしねぇ....。でも父さん、兄弟少ないよね。あ、ミーアキャットは猫じゃなかった。マングースのお友達。 「それにしても、イツキちゃん、美人さんになったな~、モテるでしょ。あれ、そちらの方は?」  いや、イケメンと言ってください。一応、ささやかだけど付いてるんだから。 そこ、前に出なくていいから。 「イツキの婚約者、狼族のルノア・シャスターです。お目にかかれて光栄です」  なんでこういう時だけきりッとするのよ。猫かぶり上手すぎね?私より。 「おや、しっかりした青年だね。今夜は君も泊まっていきなさい」  してやったりの顔のルノア。しっかりご馳走まで振る舞われて、すっかりご満悦 「タグ見ますか?」 「それは是非、拝見したいな」 て、ご機嫌取りも抜かりない。外濠埋めんなよ、こら。ムクれて椅子を立つ。 「あれ、イツキちゃん、何処に行くの?」 とお祖母ちゃん。 「俺、もう寝る」  バタバタと寝室に駆け込む。 ーそう言えば、アイツのタグ見たことない...ー ふっと思ったけど、ムシャクシャしてたからベッドの中に潜り込んで、頭からブランケットを被って寝た。  アイツのタグを見とけば良かった...と後悔したのは、ずっと後のお話。
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