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1 思い出しました
「ごめん.....」
頭をポリポリ、正しくは耳の後ろをカシカシ掻いて、私はもう一度ベッドの中に潜り込む。
あれは私の前世の記憶。名前は確か海藤斎(かいどう いつき)。ワーカホリックで、人間嫌いで、独り身のまま、心筋梗塞であっけなく逝ったアラフォー女。
死んで、あの世に行った途端に、神様に噛みついた。
ーなんで、今死ななきゃならないの!明日は大事なプレゼンがあるのよ!私の血と涙と汗の結晶なんだから~!私、課長になるんだから!ー
喚き散らす私に神様は言った。
ー寿命が来たもんは仕方なかろう。.....しっかし、想像以上の干物っぷりじゃのう。もちっとゆるりと生きられんのか?睡眠もしっかり取ってな......。ま、別な人生も悪くは無いぞー
神様が杖を一振り、ぱぁっと辺りが眩しい光でいっぱいになったと思ったら、この世界に生まれ変わっていた、しかも男に。
前世なんてずっと忘れてたんだけど、ついこの前思い出した。お城の塔から飛び降りて、着地失敗した拍子に。
思い出してから初めて下履きの中を見た時には軽くショックだったけど、まぁ子どもの頃、弟のを見たこともあるし......元気かな、あの子。
でも猫獣人てラッキーだった。獣体になった自分の前後の足の肉球もぷにぷにで可愛いし、猫耳と猫尻尾がふるふる動かせるのは超嬉しかった。ついでに自分のにゃんたまの可愛さを再認識。自分のとは言え、プリっとしてちんまり付いてるにゃんたまは、やっぱり可愛い。人間のはグロい。なんでああグロいのかと悩む。
でも、生まれ変わった『俺』はまだ十五才なんで、人間体でもそれほどグロくない。猫獣人は基本的にちんこいし、あそこ。
。人間は嫌いだったけど、猫は大好きだった。ちゃむが虹の橋を渡ってからは、あまり無い休みには、ねこカフェに通いつめてた。
その念願叶っての猫獣人なんだけど......ひとつ問題があった。
「イツキ、ルノア様がおいでになったよ」
階下から母さんの呼ばわる声がした。ルノアってのは、同じ王宮の同僚の三歳年上の狼族なんだが......婚約者なのだ。
この世界にはしかも男しかいなくて、しかも男同士で結婚して子どもを作るのだそうだ。やり方はまだ教わっていないが、なんとなくわかる。わかるけど、やっぱりあまりいい気持ちはしない。前世だって普通に普通の経験はあったけど、そんなにソレは好きじゃなかった。
だから.......。
「イツキ、大丈夫か?......その、怒らないでくれ。満月も近くて、つい」
「だからって、職場で迫んな!俺はまだ成人前なんだぞ!」
そう、職場のお城でこいつにいきなり、ちゅーを迫られて、逃げて着地失敗して、アタマを打ったんだ。みっともない。
「しばらく会いたくない!」
灰色の耳と尻尾がしゅんと垂れているけど、知らない。モフモフの耳と尻尾は好きだけど、前世で隣の席だったアイツに似ているからもっと好きじゃない。
それにそれに......せっかくしかも男に生まれたのに、
ー嫁に行け!ー
なんて絶対ヤダ!
今度こそ、出世してやるんだから!
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