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5 給湯室ではありません
侍従長さんに言われて、書類を持って財務部へお使い。長い廊下をてけてけ歩いていくと、回廊の隅っこの日溜まりにぴこぴこと複数の耳が揺れている。
見た感じでは兎耳が数人、小型犬に天竺鼠の耳も混じってる。内務部アンド管理部のベテラン様方々。お日さまの感じではまだお昼にはならない。今日は式典も無いし、内務部のお偉方は視察でお留守。お暇なのね。......て、ほぼ毎日、ここに溜まってるよね。
自慢の猫耳をぴん......と立てて、拝聴。
『ねぇねぇ、今日のマーシー長官のスーツ、素敵だよね』
『いつもダンディーで格好いいよね。なのにウチの長官ときたら...』
内務部の長官さんはセントバーナード犬の獣人さん、おっとりしてるけど、とってもいい人。じゃなかったら、あんたらクビだと思うけど?
『昨日もさ~、残業させられてさぁ。王様に面会の希望者多くてさ。捌くの大変だったよ』
『別に大臣に面会させとけばいいのに、毎週対面日を作るなんて王様もいい人過ぎだよ』
何言ってんだか。庶民の声を聞くのは政治の大事な基本。素晴らしいじゃないですかぁ~!
私の生きてた時代じゃ老害の見本みたいなが爺様達が議事堂で居眠りこきながら、碌でもない輩に賄賂もらってたり、んで国民の税金引き上げて年金減らすとか、さ。
あ、私年金もらい損ねた。死んじゃったからなぁ.....子どもいないから遺族年金もらえないし、丸損じゃん?
まぁ、それはおいといて、余所の国だって平気で国民弾圧してたりさ、結構、最低なヤツ多かったよ?
この国は王様いるけど議会制でさ、みんなの意見、ちゃんと聴いてさ。ちなみに議会で居眠りこくと、みんなの前で罰せられるの。デコピンの刑。みんなの前でやられると超恥ずかしいんで、みんな居眠りしなくなったとか.....純朴だなぁ、うん。
頷いてたら、何やら不穏な会話。
『そぉ言えば、近衛部のルノア・シャスター、今日も遅刻だって?』
やっぱり遅刻したんかい、言われてるぞ、お前。
『まぁ公爵の甥っ子だしねぇ。手柄もいっぱい立ててるし、言いにくいんじゃないか?』
そうなんよ。ルノアったら王家の腹心の甥っ子でさぁ、なんか家狭いからって無理くり一人暮らし。そんなことするから、寝坊して遅刻すんのよ。学校の時もそうだった。
『ぱっとしないけど、金持ちだしねぇ。婚約者いるとか言ってるけど、どうなんだか.....』
『結構チョロそう。リムさんにかかれば一発じゃん?』
はい、その婚約者ですが、何か?。
リムさんは管理部の兎獣人の年増。人間の女子で言えばお局さま。はっきり言ってケバい。男だけど、やっぱりケバい。
で、集音機能抜群な猫耳はともかく、財務部に行くにはそこを通らなきゃいけない。捕まるのヤダ。お局さんキライ。でも、迅速に業務を遂行せねば~ーと悩んでいると、後ろからツカツカと歩み寄る影。
「美人さん達、業務中だよ、持ち場に戻りなさい。そこを通してくれないか?」
キリッと言い放つのは、外務長官のアンドルーさま。希少なホワイトタイガーの獣人さんで、真っ白な肌、黒髪の細マッチョな超イケメン。お局さま方から一斉に黄色い悲鳴があがる。
『アンドルーさま、いつお帰りに?』
『旅のお話、聞かせてください~』
叺びしい。まじ五月蝿い。トーン下げて、耳壊れる。
「業務に戻りなさい!」
群がるお局さま方をピシッと睨む金の眼の凛々しさよ。
構わず進むアンドルーさまの後ろに追て敵地脱出。
ほぅっ......と息をつく。とくるっと振り向くホワイトタイガーさま。
「君は?」
「はいっ!侍従見習いのイツキ・カーラントですっ!」
思いっきり胸を張る。鋭い目が瞬間、細められる。あぁ、堪らん。猫科はデカくても可愛い。いい男よの~。
「ルノアがぞっこんだそうだな。早く一緒になってやりなさい。ヤツの遅刻も減るだろうから」
前言撤回!私はルノアの目覚ましじゃなーい!
せっかく褒めてあげたのに~!
......とぶつぶつ言いながら戻る私の背後に不穏な気配。
『社畜......』
えっ?
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