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6 社畜上等!セクハラ反対!
ー社畜......ー
ニレの木の下、懐かしい響きにくるりと顔を巡らせた。が誰もいなかった。さわさわと淡い緑の木の葉だけが風に揺れていた。
社畜......ワーカホリックで仕事第一、会社のためなら滅私奉公、な人間を私が前世にいた社会では侮蔑も込めてそう呼んでいた。
ー社畜の何が悪いのさ...。ー
カレシやらお洒落に夢中になってたって、いずれ人間は年を取る。年を取った時に安泰に暮らしたいと思うのは人の常。同期や友人はさっさと結婚して安定した生活を手に入れた......と思いきゃ、旦那の浮気やら子どもの非行やら自身の不倫で、安定なんてほど遠い人生をやっていた。
何度、電話で呼び出されて延々と愚痴を聞かされたやら......。で、ーいけない、夕飯の時間だわ。ーとか言って、何事も無かったようにさっさと帰宅。
後に残るのは、精神力を限界まですり減らされた私とお会計のレシート...貴重な休日返せ!
こんなことなら休日出勤して仕事しときゃよかったと、行きつけの猫カフェでアメショーのぷぅちゃんとネコジャラシで遊びながら、つくづく思った。
まぁ、ウチの母さんみたいに旦那のDV でさんざん悩まされた人はいなかったけど。結局、女を作って出ていったクソオヤジ。母さんてば女手ひとつで私ら姉弟を大学まで上げて、野垂れ死にしたクソオヤジの葬式まで出してやって、いい人過ぎでしょ。
そんなに苦労してきたクセに、
ー女の子はね~、やっぱり永久就職が一番よー
て、いつの時代の人ですか。『永久就職』なんて死語どころか今や古語。ショーワの人だって使わない。大正?明治?な話です。企業の終身雇用だってアヤシくなったご時世にあり得な~い!
でも、もうちょっと親孝行したかったな。同居の弟のヨメともいまいちだって聞いてたし、課長になれたら一緒に温泉旅行にでもって思ってたのに......。
「イツキくん、イツキくんどうしたの?」
はっ、侍従長さま、すいません。ついボーっとしてしまいました。仕事中に業務以外の考え事なんて言語道断ですねっ!
「も、申し訳ありませんっ!」
深々と頭を下げてお詫び。減給しないで~、査定下げないで~。泣き。
「大丈夫だよ。もう時間だから、帰りなさい」
優しい優しい侍従長さま。未成年は早く帰さねばという心遣い。児童福祉法も完璧だね~。でも、私、いや俺はタフな山猫。フルタイム勤務が希望なんだけど、いつも却下。
「ルノア殿が心配するから、寄り道はいけませんよ。近衛の詰所にこれを届けて、直帰しなさい」
どうでもよさそうな書類を一枚持たせて、ぴらぴらと手を振る侍従長さま。そういう気遣い、いりませんから~!
近衛の詰所に顔なんか出した日には、暇と体力を持て余した獣人達にイジられるのがオチ。
「お~いルノア、嫁さん来たぞ~!」
と大声で呼ばわれ、どすどすと足音荒く寄りつかれ、
『山猫かぁ~。つり目が色っぺえな』
『猫族にしちゃ手足長いし、利かん気そうだな。ルノアに躾けられるんかな』
『そこはほら、あれだから。アイツああ見えて、アレらしいぜ』
未成年の前で不穏な会話は止めてください!職場内は18禁ワードは禁止です。セクハラですっ!
「こら、お前ら#他人__ヒト__#の嫁さんで遊んでんじゃねぇ!...イツキどうした?俺の顔を見たくなったのか?」
ひとしきりワイワイされた後に、噂の元凶のお出まし。
「俺、お前の嫁さん違うから!これっ!侍従長さんからの預かりもの。提出は明後日だって」
ルノアの革の鎧をつけた分厚い胸に書類を押し付けて、くるっと後ろを向く。無駄にいい身体してんのよね、クヤシイ。私なんか男なのに、胸なんか薄くてぺったら。やっぱり筋トレしようかな.....。
と、お城の門を出た辺りで不穏な人影。
「久しぶりね~、社畜ちゃん」
なっ!? そういうアンタはもしかして...。
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