7 やっぱり腐ってた...

1/1
前へ
/38ページ
次へ

7 やっぱり腐ってた...

「久しぶり~社畜ちゃん」  妙に高いテンションに振り向けば、前髪ぱっつん、細目のカワウソ獣人が、木の陰から手を振ってる。なんだこの#既視感__デジャヴュ__#。しかも、社畜って...この世界で初めて聞いたぞ。だいたい会社なんて存在してないのに......こいつ、まさか ー転生者?ー  ドン引きする私の方にスタスタ歩み寄る、その独特な歩き方.....。 「わたしよ。わ・た・し、忘れたの~?」 「まさか、隣の部屋の腐れ女!?」 「やぁね~、貴腐人て言ってよ」  憶えてる。前世で隣の部屋に住んでた漫画書きの姉ちゃん。BがLする漫画書いてコミケとかで売りまくってたやつ。時々、ベタ塗りとか手伝わされて、いつぞやは休日出勤の私の後ろに隠れて会社に紛れこんで、印刷室で薄い本を印刷しまくってた。 「なんで、あんたがここにいるのよ!?」 「まぁ、そんなにイキらないの。シワになるわよ~。立ち話もなんだし、家来てお茶飲まない?」  返事する間もなく、元腐女子のカワウソ獣人は、ぐいぐい私の腕を引っ張っていく。相変わらず陰キャっぽいずるずるな服だけど、しなやかボディになって前よりは少しマシかも、うん。  で、連れていかれたのは、お城からほど近い、ちょっと裏道に入った一軒家。 「さぁ入って、入って」  玄関から押し込まれた部屋は.....なんか前世のやつの部屋とあんまり変わらない気配。 「んもぅ、すっかり若くなっちゃって~。なかなか気付かなかったわよ」  ティーポットから紅茶っぽいお茶を淹れてくれてニンマリ笑う。その笑いかたも変わらんねぇ。 「前世じゃ私の方が若かったのにさぁ~」 「なんでわかったのよっ!」  紅茶を勢い良く飲み干して...って、あっちち...舌やけどしたわよ。私、猫舌なんだから。 「あらぁ、ちょっと前にお城の門を通りかかったらさぁ、『イツキ~、イツキ~』って狼野郎がデカイ声で呼んでたからさぁ、ひょっと見たら、どっかで見たようなつり目な我が儘っぽい猫がいるじゃない。まさか......とは思ったんだけど、『社畜』って囁いてみたら、モロ反応したから、やっぱり社畜ちゃんだと思ってさ~」  あんのバカ狼!.....それにしても、なんでコイツがこの世界に転生してんの? 「やぁだぁ~社畜ちゃん、私さぁ、事故で死んだじゃない。コミケの帰りに、買ったばかりの二次創作のやつ、つい夢中になって読んでてさぁ~」  思い出した。三十そこそこで事故で死んでたんだわ、この人。 はっ......! 「あんたねぇ.....部屋の片付けに来て、親御さん固まってたわよ。エチエチな本、しこたま溜め込んで...。どうやって捨てようか悩んでたわよ」  そう、仕方なく、こっそり会社持っていってシュレッダー掛けてあげた。私まで腐女子かと思われたわよ、一時。単なる燃えないゴミなのに。 「あ~、あれは思いっきり黒歴史になっちゃたわねぇ。でも隣が社畜ちゃんで良かったわぁ」  良くない。全然、良くない。いや問題はそこじゃない。 「いや、なんであんたの転生先がここなのよ?」 「そりゃあ、神様にリクエストしたから.....人外のエチエチ流行ってたじゃない、前世で」  腐れ沼の流行りなんぞ知らんがな。まぁルンルンしてるとこを見ると満喫してるみたいね~。イケメン獣人多いしね。 「社畜ちゃんは、どうして?...やっぱり事故死?」  違うわ!カワウソ女め。 「会社で倒れたのよ、残業中に」  額をピシャリと自分で叩いて、やつが笑った。 「名誉の戦死?らしすぎてウケるぅ~」   ずずっとお茶をすすってやつは、はあぁと大きな息をついて、やつはマジマジと私の顔を見た。 「しばらく様子を見てたら、相っ変わらず社畜ちゃんしてるみたいね~。まぁ会社じゃなく王宮勤め?あんたも好きよね?少しは懲りなさいよ」  ぐさっ.....。いいじゃん、趣味なのよ、仕事がっ。 「そういうあんたは何やってんのよ?相変わらず漫画書き?#男__ヤロー__#しかいないのに、需要あんの?BL って」 「それがあるのよ~」  訝る私に、ぴらぴら手を振って、やつが言った。 「この世界には、妖精とか精霊とかってのも住んでいてさぁ......この世界じゃそういう種族は性別が無いらしいの。赤ちゃんも木の実とかから出てくるらしくて.....」  ファンタジー通り越して童話の世界かよ。 「だ、か、ら#獣人__にんげん__#のエチエチに興味深々らしくて......もぅ売れっ子なんだからぁ.....あ、あんた今度、結婚するんでしょ。取材させてよ。一途でヤンデレなワンコ攻めと生意気ニャンコ受け、滾るわぁ...」  誰がヤンデレだ?そんなだったら今すぐ縁切るぞ、ルノア!第一、結婚なんかしねーし! 「結婚なんか、しないもん!取材したけりゃ、自分でパートナー作れば?」 「あ~ら、いるわよ。パートナー」  へっ?
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

55人が本棚に入れています
本棚に追加