8 オタクは何処にでもいる

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8 オタクは何処にでもいる

「ボーゲ、ちょっとぉ~」 「はぁ、呼んだ~?」  呼ばわった先からのっそり出てきたのは、人の良さそうなカピバラ獣人。しかもなにげにオタクっぽい匂いが......。   「同居人のボーゲ。武器作りが仕事で趣味。ま、拘り過ぎてあんまり売れないんだけど。ボーゲ、社畜のイツキちゃん。転生仲間なの。働き過ぎて過労死だって」  ぽわ~んとした寝惚け眼をしばたたいて、カピバラくん、私をじいっと見る。 「初めましてぇ.....。サイラの同居人のボーゲですぅ。武器って芸術なんですよぉ。イツキさん、転生者なんですか?イツキさんのいた世界の武器ってどんなですか?槍とか#剣__ツルギ__#とかって、どんなんありますぅ?」  いや、私のいた前世じゃ、槍とか刀とかって、博物館に展示されてる。ずーっと昔の遺物だから。たぶん、ピストルとかライフルとかが主流(?)だし、戦闘機とか潜水艦とか、下手したら核弾頭だし......。 「イージス艦ってどんなんですか?サイラに聞いたんですが、是非一度見たいんですよぉ.....戦闘機とかって、空飛べるんですか?人間が」  そう言われても、一般人な私は兵器のことなど知りません。解説、無理です。 「いっつもこんななのよ。日がな一日、鉄の塊いじくってるの。かと思えば、人気のアイドルグループのグッズとか人形集めまくって、舞台に通いつめて、踊ってるの」  ミリオタかつアイドルオタクですか。カピバラのオタ芸......見てみたいかも。 「あ、そうだ。今度、妖精界でコミケあるのよ。売り子いなくてさぁ......バイトしない?妖精界にもイケメン美人いっぱいいるわよ。アレは無いけど」 「行かないっ!」  イメージ壊さないで、ファンタジーなんだから。  妖精界でコミケなんて...薄い本買い漁って読み漁ってる妖精なんて見たくないよぉ......。『エモい』なんて目をキラキラさせてる精霊なんてヤダ.....しくしくしく。 「あ、思い出した!」  ボーゲさん、いきなりすっくと椅子から立ち上がる。拍子にお腹がぽよんと揺れる。 「シシィちゃんの握手会のチケット予約、始まるんだ。並ばなきゃ!」    とてとてとて.....とネルのシャツを引っ掛けて走るカピバラ...。カピバラも走るんだ、目からウロコ。 「そりゃ走るわよ。巨大天竺ネズミだもん」  ケラケラ笑うカワウソ女。 「しかも、チケット予約って明日からなのよね~」  オタクの情熱は万国共通ってか? 「ところで......」  急にマジな顔になるカワウソ女。 「もう、やった?」 「やったって何が?」 「アレよ。アレ。......いや、前世はゲイビは見てたんだけど、なかなかリアリティがわかなくてさ。自分でやるにも、パートナーがあれでしょ?体験談、聞かせてよ」  はいぃ? 何を言い出すんだ、コイツ。 「私さぁ~陰キャだから、他ナンパするのもちょっとねぇ.....」  アレとはまさしくアレのことかい?  思わずルノアの逞しい胸板を思い出して顔が真っ赤になる。 「私は未成年だっ!」 「お堅いのねぇ.....」 「帰るっ!」  椅子を蹴たててカワウソ女の家を飛び出した。と、途端にどすんと何かにぶつかった。 「すいませんっ!」 と鼻を押さえて上げた顔の真ん前には近衛隊の革の鎧。 「ルノア?」 「何やってんだ、お前?」 「何でもないっ!」  走り去ろうとする私の襟首をぐいと掴んで、ルノアはジロリと私を睨んだ。 「夜遊び厳禁!ほら帰るぞ!」  荷物みたいにルノアに担がれて帰る姿をカワウソ女はによによ笑いながら見送ってた。  私は結婚なんかしない、絶対。  あんたとなんか、エチエチなんかしないんだから~!...と心の中で叫びながら、ルノアに運搬された夕暮れだった。とほほ.....。  
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