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窓の外の景色は流れるように移り変わって行く。
つい先程まで街中を走っていたタクシーは、いつの間にか、山道に差し掛かっていた。
遠くから川のせせらぎが聞こえてくるような、そんな気持ちになる。
「とうもろこし」
「椎茸」
「け、け‥‥け?」
「あるある」
「え?‥‥ないよ?」
後ろでは杏ちゃんと亮太がしりとりをしていた。おそらく、野菜縛りでしているのだろう。
私はちらっと隣の様子を窺う。
新幹線の中でも爆睡していたのに、どうやら、まだ眠いらしい。
英二は、腕を組み、窓に寄りかかって眠っていた。
「もうすぐ着くよ〜」
蘭さんがにっこり笑って、助手席から振り向く。
杏ちゃんと亮太はすぐにしりとりをやめて、荷物をまとめ始めた。この切り替えの良さが、別荘への興奮を抑えられない2人を、容易に想像させる。
「英二、もうすぐ着くってよ」
私は英二の肩を揺らした。英二は一度眠りにつくと、なかなか起きない。朝も、3人のうち誰かが、毎日英二を部屋まで起こしに行く。
私は、いつもしているように英二の鼻をつまんだ。
「‥‥ん」
英二の瞼がゆっくり開く。
──蘭さんは、英二の寝起きがとんでもなく悪いことを知っているだろか。
一緒に暮らしているのだから、私しか知らない英二の姿だって、もしかしたらあるのかもしれない。
美咲は、敵うはずない相手に、しょうもない張り合いをしていることが少し情けなくなった。
「皆さん到着いたしました。少し坂になってますので、気をつけて降りて下さい」
タクシーのおじいさんは、2世代くらい年下の私たちに、丁寧すぎる口調で話しかける。
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