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ナーゼル自身、十三で初子を出産し母となった彼女とはもはや十年の付き合いだ。「偶には旦那と二人きりで恋人気分を味わっても良いんじゃねーの」という気持ちだった。
自分にしてみても、若長であり親友でもある彼の子供を任されるというのは名誉な事であるし、それだけ信頼されている証だ。たった一晩なら、迂闊に死なせる心配も少ない。
砂漠の民であり盗賊でもある自分達にとって、死とは日常的な恐怖。
駱駝に蹴られて当たり所が悪くて死んだ。オアシスで水遊びしていたら溺れて死んだ。砂に足を取られて沈んだまま死んだ。風邪を拗らせて熱が引かなくて死んだ。薬が手に入らなくて死んだ。砂鮫に食い千切られて死んだ。蠍に刺されて死んだ。毒蛇に噛まれて死んだ。巨禽鳥に啄ばまれて死んだ。――こうした逸話に事欠かない。
怪我や病気や危険生物によって、呆気なく死ぬ。これが自分達の生活で、暮らし。
流石にナーゼルは男で乳が出ないし、妻も妊娠中で乳が出るのはまだ先の話なので、彼女と同じく子を産んだばかりで母乳が出る親友バールの嫁が末っ子だけ預かってくれる事になった。これで赤子のご飯の心配もない。
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