はじまりはじまり

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 しかしながら、ナーゼルは常々不思議に思う。  自分の親友であり、自分達を束ねる狼の氏族の長である彼は確かに年齢にしては貫録があり、盗賊としての側面を持つ以上は少々物騒で剣呑な部分があるのも否めないが、基本的には穏やかな日常を愛する優しい人間である。  だからこそ、十二で女を攫ってきたのも予想外なら、すぐに孕ませた事も予想外だった。  そんなカリムの母もまた、元は草原の民であったという。砂漠へ運ぶ荷を急襲され、そこでカリムの母は当時狼の氏族長であった男にそのまま戦利品よろしく攫われた。  今でも思い出せる。自分達よりは薄い淡褐色の肌、青みがかった灰色の瞳と鳶色の髪、淑やかな色気が幼心に印象的だった佳人。  確かに、子は多ければ多い程良い。  だから遊牧の民は、財産に余裕のある男であれば妻妾を何人も囲うし、盗賊の性を持つが故に、時には略奪ついでに女も掻っ攫う。どこの氏族も、砂漠の民は基本は黒髪黒眼の褐色肌の人種だが、そんな風に拐かされてきた者やその子孫は、淡い肌や黒以外の色彩を持っている。自分の腹違いの兄弟や、カリムのたった一人の妻がそうであるように。
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