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ミンチ
夜道に「ミンチ」が落ちていた。
ミンチ、そう挽肉のことだ。ぐちゃぐちゃとした桃色の肉の塊が、足元にべちゃりと落ちている。
一体なんだ、これは?
買い物帰りの落とし物か?
SNSに投稿すればちょっとしたネタになるかもしれない。ポケットからスマートフォンを取り出そうとした。
「あのう……僕、助かるんですか?」
声が聞こえた。
周りに人の気配は無い。
「あのう……僕、助かるんですか?体じゅう、痛くて……救急車は、まだですか?」
声は地面から聞こえてくるようだった。再び視線を下に戻す。
なんと、あの「ミンチ」が小刻みに震えていた。ときどきヒューヒューと息を漏らし、そして苦しげに呻いていた。
「僕、助かるんですよね…?こんなことになってしまって、早く病院に行かないと…入院して、手術すれば、またもとの身体に戻れますよね?」
「ミンチ」は震えながら次第に肉を盛り上がらせ、少しずつ人型を作っていった。よたよたと膝をつき、動くたびにボタボタと肉片をこぼし、なんとか立ち上がろうとしていた。
「早く病院に⸺」
言い終わらないうちに「ミンチ」はバランスを崩し、激しく転んだ。その衝撃で肉片が飛び散り、こちらの顔にかかった。
「痛い、痛い、痛い、助けて。早く救急車を呼んで。病院に連れて行って⸺」
耳を塞ぎ、「ミンチ」に背を向けて必死で走った。自分の家までついてこられたらかなわないので、わざと滅茶苦茶に遠回りをしながら家に帰った。
「ミンチ」に出会った場所、あれは数十年前に大きな鉄道事故が起きた場所だったそうだ。被害者のうち、身体が全て揃って見つかった人はほとんどいなかったと言われるほど、凄惨な事故だったらしい。
あの「ミンチ」もきっとそうした被害者なのだろう。
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