35人が本棚に入れています
本棚に追加
ボーッと黄ばんだカーテンを見上げていて、学校の保健室みたいだなって思った。昔はよく、生理痛でダウンしたなぎさに付き添った。あの頃は、自分がΩであることを深刻に思っていなかった。漠然と、将来は俺も普通の大人の男になると思っていた。もしその通りになっていたら、俺は今も付き添う側だったはずだ。二人目とか、もしかすると三、四人目を産んだ嫁さんのために、足しげく産院に通う俺。それはそれで幸せなんだろうが、そこにいる赤ん坊は、チビ助やおチビとは別人だ。
コンコンとノックの音がした。ドアは常に開けっ放しなのに、律儀なことだ。革靴の足音が入ってくる。ゆっくりとした歩みは、看護師や医者でもなく、隣のベッドの奴の番でもない。
「アキ、」
「なんだよ」
「入ってもいいか?」
「どうぞ」
カーテンが少し開いて、長身の男が俺のスペースに入ってきた。
「お見舞いに来たよ」
誓二さんだ。相変わらず身なりと姿勢がよくて、アラフィフには見えない。うーん、バースプランに知玄とお袋以外の面会は全部お断りって書いたんだけどな。ま、この産院、色んな部分が適当だから、仕方ないのか。
そのまま寝てていいと言われたけど、俺は起きて正座し、チビ助を膝の上に抱いた。
「せめて足は崩しなよ」
俺は首を横に振った。ケツが痛いと、結局この座り方が一番楽なんだ。
「これ、少ないけど。お返しはいいからな。そしてこれは坊やにお土産。で、これはお前のおやつ」
「ありがと」
誓二さんは、俺の目の前にのし袋と小さなケーキの箱を置き、サイドテーブルに紙袋を置いて、パイプ椅子に腰を下ろした。そして興味深そうに俺をしげしげと見る。なんだかバツが悪い。と、ちょうど良いタイミングで、チビ助がくわぁと欠伸をし、目をあけた。
「抱っこしてみる?」
間を持たせるためにチビ助を使うようだが、どうせ誓二さんは産まれたての赤ん坊を抱っこしたくて、わざわざ遠路はるばるやって来たんだ。案の定、誓二さんは「いいの?」と腰を上げた。俺は誓二さんにチビ助を預けた。大柄な誓二さんの腕の中にすっぽりつつまれると、ただでさえ小さいチビ助は、ほんとうに小さく見える。
最初のコメントを投稿しよう!