もしもはもしも。

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 ボーッと黄ばんだカーテンを見上げていて、学校の保健室みたいだなって思った。昔はよく、生理痛でダウンしたなぎさに付き添った。あの頃は、自分がΩであることを深刻に思っていなかった。漠然と、将来は俺も普通の大人の男になると思っていた。もしその通りになっていたら、俺は今も付き添う側だったはずだ。二人目とか、もしかすると三、四人目を産んだ嫁さんのために、足しげく産院に通う俺。それはそれで幸せなんだろうが、そこにいる赤ん坊は、チビ助やおチビとは別人だ。  コンコンとノックの音がした。ドアは常に開けっ放しなのに、律儀なことだ。革靴の足音が入ってくる。ゆっくりとした歩みは、看護師や医者でもなく、隣のベッドの奴の(つがい)でもない。 「アキ、」 「なんだよ」 「入ってもいいか?」 「どうぞ」  カーテンが少し開いて、長身の男が俺のスペースに入ってきた。 「お見舞いに来たよ」  誓二(せいじ)さんだ。相変わらず身なりと姿勢がよくて、アラフィフには見えない。うーん、バースプランに知玄(とものり)とお袋以外の面会は全部お断りって書いたんだけどな。ま、この産院、色んな部分が適当だから、仕方ないのか。  そのまま寝てていいと言われたけど、俺は起きて正座し、チビ助を膝の上に抱いた。 「せめて足は崩しなよ」  俺は首を横に振った。ケツが痛いと、結局この座り方が一番楽なんだ。 「これ、少ないけど。お返しはいいからな。そしてこれは坊やにお土産。で、これはお前のおやつ」 「ありがと」  誓二さんは、俺の目の前にのし袋と小さなケーキの箱を置き、サイドテーブルに紙袋を置いて、パイプ椅子に腰を下ろした。そして興味深そうに俺をしげしげと見る。なんだかバツが悪い。と、ちょうど良いタイミングで、チビ助がくわぁと欠伸をし、目をあけた。 「抱っこしてみる?」  間を持たせるためにチビ助を使うようだが、どうせ誓二さんは産まれたての赤ん坊を抱っこしたくて、わざわざ遠路はるばるやって来たんだ。案の定、誓二さんは「いいの?」と腰を上げた。俺は誓二さんにチビ助を預けた。大柄な誓二さんの腕の中にすっぽりつつまれると、ただでさえ小さいチビ助は、ほんとうに小さく見える。
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