もしもはもしも。

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「ちっちゃいなぁ。アキによく似てる。というより、徳治兄(とくじにい)に似てるのかな、あはは」  誓二さんは嬉しそうだ。ほんとうなら、俺がこの人を父親にしてやるはずだった。十代の頃、年々悪化する発情期(ヒート)の間に匿ってもらう代わりに、俺は将来この人の子供を産んでやると約束した。誓二さんの婚約者だった暁美(あけみ)ちゃんが子供を産めない体質だったからだ。  もしも暁美ちゃんが不慮の事故で死んでいなければ、今頃俺は、誓二さん夫婦の為に二人目か三人目の赤ん坊を産んでいたかもしれない。または、暁美ちゃんの死後、俺が逃げなければ、誓二さんは今頃、俺の産んだ子の父親だったかもしれない。 「俺が坊やを見てる間に、ケーキ食べちゃいな。お前が好きなやつを買ってきたんだから」  誓二さんがそう言うので、俺は小さな箱を開けた。中には俺の好物のチーズケーキが入っていた。ありがたくいただくことにする。ひと(さじ)すくって口にすると、懐かしい味がした。 「ん、美味い」  俺が言うと、誓二さんは目を細めて頷いた。  美味いのはいいけど、チビ助がむずかり始めた。しきりに舌をペロペロし、小さな拳をしゃぶり、まだよく見えないはずの目でこっちを見る。不思議なことに、俺が何か食べようとするといつもこうだ。絶妙なタイミングで腹が減ったとアピールしだす。  チビ助に大声で泣かれて隣の奴を起こしてしまうのもなんだから、俺はケーキを諦めてテーブルに置き、誓二さんからチビ助を返してもらった。誓二さんの前では、今更遠慮することはない。俺はパジャマの前を開けて、チビ助を抱き寄せた。 「ほらチビ助、おっぱいだぞ」  チビ助は足をじたばたさせながら乳首に吸い付こうとするが、焦れば焦るほど顔が乳首から遠ざかっていく。俺はチビ助の後ろ頭を掴んで、半ば無理やりチビ助の顔を乳に押し付けた。チビ助はやっと乳首を見つけると、ぶつくさ文句を言うような声をあげつつ、吸いはじめた。とぷっとぷっと規則的な音が鳴る。 「想像してたのと違うな。カツオ捕ったぞー、って感じだ」  確かに。チビ助は、全身を床と水平にピンと伸ばした格好で俺の胸に顔を埋めている。この授乳スタイル、思ったよりも母子感がないなと俺も思う。助産師は、この姿勢が理想的だという。乳首が捻れないから、乳腺炎になりにくいんだそうだ。
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