帰り道

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 気をとり直して周囲を見渡せば、三月までは知白が仕切って遊んでいた仲間達は、小さなグループにわかれて知白ぬきで遊ぶようになっていた。しばらくの間、知白は誰も遊ぶ相手がおらず、園庭の隅で蟻の巣を掘り返したりカエルやダンゴムシを捕まえたりして遊んでいたが、同じ学年の多田なぎさに声をかけられた。なぎさと一緒に遊ぶうちに、しだいに周囲に仲間が集まり、増えていった。同い年の輪で遊ぶ楽しみを再び得た知白は、弟のことなどすっかり忘れてしまった。   ***  一年後、知白は卒園し、小学校に入学した。知玄はさびしいと思ったが、兄の入学式の朝、あと一年の辛抱なんだと思い直した。スーツを着てピカピカのランドセルを背負った兄が、おめかしした母と玄関先に並び、写真を撮ってもらっている。来年は自分も新品のランドセルを背負って、兄に手を引かれて小学校へと歩くのだ。  保育園では、知玄はしくじってしまった。兄にかまってもらいたい一心で、何も出来ないふりをしていたのを、見破られた。兄は、自分がいるから弟が何も出来ないヤツになるといって、知玄から離れていった。 『小学校ではお兄さんに見放されないよう、頑張らなくては』  さらに一年後、知玄の決意は空振りとなった。  朝は登校班で縦一列にぞろぞろ歩いて登校する。知玄は一年生なので、班長の六年生である高志(たかし)先輩のすぐ後ろを歩かなければならなかった。兄は最後尾の辺りで、友達の裕一(ゆういち)君とおしゃべりをしながらダラダラ歩いていた。  学校内では、保育園以上に上級生との接点がない。帰りなどは酷いことに、兄は恋人のなぎさちゃんを家まで送ってから帰ると言い、家とは学校を挟んで真逆の方向に行ってしまうのだった。知玄はしかたなく、一人でとぼとぼと家路を歩いた。帰る方向が同じ同級生には従兄の智也(ともや)がいたが、智也は知玄をいじめるので、知玄は智也とその仲間達が行ってしまうのを待ってから学校を出た。  放課後はときどき、兄のあとについて近所の神社に遊びに行った。神社の境内にはたくさんの子供達が集まっていて、兄は必ず輪の中心にいた。  知玄は、一応頭数には入れられていた。だが少し目立てば智也がいじめてくるので、知玄はみんなの輪の一番外周にひっそりと立っていた。 
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