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「えっ」
「え、」
お互いに見つめ合い、少しの時間が流れた後、、
「ぎゃーーーー!」
先に声を出した、いや、奇声を発したのは私の方だった。
「いや、だから、そんなに怖がらないでください!」
「すいません!すいません!怖がっている訳じゃないんです!推しが目の前にいて、しかもこの数分間で推しと話して、肩を叩かれて…。やっぱり、これは夢なんじゃ…」
私の頭が整理不能になった時、
「いや、夢じゃないです!それに、俺も急に誰かに襲われて、気が付いたら貴方が目の前にいて…」
彼はそう言うと、顔を下に向け、黙った。
「それは、本当に申し訳ないです。でも、私は怪しい人じゃないです!それだけは信じて下さい!」
「はい…。それはなんとなく分かります。」
「へっ、」
私が間抜けな返事をすると、彼は壁を指さした。
彼が指さす方向を見ると、そこには彼のポスターが飾られていた。
私はその瞬間、何もかも終わったと思い、静かにその場で正座をし、そのまま両手を床につけると、綺麗にお辞儀をしながら床に頭をつけた。
「本当にこの度は、私の父の行き過ぎた行動の所為で、大変ご迷惑をお掛け致しました。よく、父には言って聞かせますので、ここまでの行動をどうかお許し願います」
「あの、ちょっと待って下さい!もう少し詳しく話して頂けませんか?本当にどうしてこうなっているのかが分からないです!というか、顔を上げて下さい!」
私はゆっくり顔を上げ、
「ごめんなさい。私も詳しくは知らないんです。なので、今からこの事態を引き起こした父に電話を掛けるので、そこで事の成り行きを一緒に聞いて頂けたらと思います」
私は静かにスマホの電話の画面を開き、父に電話をした。
静寂の中、発信音が響き渡る。
すると、父は私の電話をずっと待ち構えていたのか、すぐに繋がった。
「もう分かったと思うけど、お前が応援している俳優さんを買ったよ。それが今年の舞依への誕生日プレゼントだ」
え、今なんて言った。
”買った”って言った?
私の頭が真っ白でいると、
「そんなに驚いたか…!いや~、舞依の誕生日プレゼントは何がいいか考えていたら、舞依が舞台俳優を応援してる事を藤木から聞いてね。それで、どうせなら本人をプレゼントしようと思って買ってしまったよ!」
そう言いながら、父は笑っている。
というか、藤木さん、、まさか父と話した会話からこんな事になるなんて思ってないだろうな。
「ちなみに、この事を藤木さんは知ってるの?」
「いや、知らないと思うが、何故だ?」
あー。この件を藤木さんが知ったら、私にすぐに謝罪の電話が来るだろう。
私は頭を抱えながら、父の電話に応じた。
「とにかく、今年の誕生日プレゼントは今すぐになかった事にして!」
私がそう言うと、父は声のトーンを変えた。
「気にいらなかったのか。まさか、何かされたのか!」
「いや、何もされていけど!ていうか、何かしたのはお父さんの方でしょ!」
そう言うと、父は不思議そうに
「いや、別に、屋敷の者に舞台終わりに彼を拉致するように命じ、箱に入れて舞依の家に郵送させるように伝えただけだが…」
それがいけない事なんだよ…!
私は心の中で父に突っ込んだ時、ある出来事を思い出した。
そう言えば前に、私が趣味でカードを集めてるって父に言ったら、翌日、その集めてるカード全種類が机の上に並べられてたっけ。しかももう、販売してないやつや、まだ見た事ないやつもあった気が…。
父は私の為なら何でもしてしまう人だった事を改めて思いだした。
「もし、舞依が誕生日プレゼントを要らないって言うなら、すぐに屋敷の者を向かわせるが…。困ったな。」
「何が困ったの?」
私が聞くと、父は少しの沈黙の後、更に耳を疑うような衝撃発言をした。
「彼、住むところも、お金も、それにマネージャーもいないんだ」
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