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私が声を出す前に、先に声を出しのは彼だった。
「えっ、どういう事ですか」
「まず君は何も持ち物を持っていないだろう」
父がそう言うと、彼は慌てて自分のズボンのポケットや上着のポケットをあさり始めた。
「何もない…」
「携帯電話から助けを求められたら、私は犯罪者扱いになってしまうからね。流石に自分の顔に泥を塗るのは嫌だから、君がその時持っていた物、全てこちらで預からせて頂いたよ」
いや、もう、彼を拉致している時点で犯罪者なんだよ。
私は、また心の中で父に突っ込んでいると
「あ、安心してくれ。お金と君の携帯電話諸々、明日、屋敷の者が舞依の住居に届けに行く事になっているから」
「そういえば、彼の住まいはどうするの?」
私が父に質問すると、父は平然とした声で
「それは、勿論、舞依が住んでいる場所に住んでもらうしかないな」
「はい!?」
「広い部屋に住んでいるんだ。空室の一つはあるだろう」
「あるけど…」
そういう問題じゃないんですけど…。
私がちらっと彼に視線を向けると彼は、もう色々と頭の中がキャパオーバーみたいで口を開けたままどこか遠くを見ていた。
そう言えば、まだ父は何か言っていたような。
あ、そうだ。
「マネージャーさんは何でいないの?」
「マネージャーはちょっと金銭をあげたらすぐに、どこかに行ってしまったよ」
マネージャー!!そんなんでいいのか!!
お金の方が大事だったのか!!
この事を周りのファンが知ったらどう思うだろう。
もう、なんか色々と頭が本当に疲れてきた。
電話越しで父は衝撃発言を連発するし、その影響で彼は茫然と立ち尽くしているし、
「ちょっと頭の中を整理したいから、とりあえず、電話切るね。」
私がそう言うと、父は
「ああ、分かった。お前への今年の誕生日プレゼントを受け取るかは、改めて自分で決めてくれ。それで、決まったら連絡してくれ。出来れば今日中に」
「はーい。それじゃ。バイバイ」
電話を切った後、私は隣でさっきから一ミリも微動だに動かない彼に声をかけた。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫に見えますか?」
「見えないです…」
私はなんて声をかければいいのか分からず、口を閉じた。
でも、話を進めなければ何も進展しないと思い、
「何か飲み物用意しますね。一回お互い落ち着きましょう。えっと、ソファーにかけていて下さい」
私がそう言うと、彼は静かにソファーに向かった。
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