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ユーリー物語
国には太古から予言が存在する。
【少女から希望が芽生え、神の眠りを解く。
だが、深く暗い闇が付きまとう。
彼女は民と神の信頼・信用を得て、
指導者を支える柱となるだろう。
彼女の苦悩は誰にも理解されず一生を過ごすだろう】
予言は数百年の間、叶うことなく凍結していた。
けれどようやく春が来るようだ。
一対の瞳が花ではなく、ある人を映す。
「あの人の生まれ変わりを探さなきゃ」
異常に小さな体が運命を運ぶことを知るのは、しばし先のこととなる。
✝ ✝ ✝
この国の中心部には王都がある。
そこから南西にある街が始まりだ。
その町で最も位の高く、
裕福な屋敷に彼女は住んでいる。
屋敷の前には三つの門がそびえたち、広い庭園が広がる。
だまし絵が施されている玄関扉を開けると
一層豪華な装飾が見える。
赤を基調とした廊下では使用人が忙しそうに動き回っている。
「マリ! 準備は出来たとユーリー様にお伝えして頂戴」
一番偉いと思われる女給仕が、
下級で汚れた格好の女に指示を出した。
「かしこまりました」
彼女が螺旋階段を上がれば、
階下の喧騒が嘘のように聞こえなくなった。
屋敷にいるものは一人を除いてパーティーに出席しているからだ。
「計画まであと少しなのね。残念だわ」
ポツリと呟いた彼女は物静かな雰囲気を気にすることなく足を進める。
最奥にある可愛らしいオレンジ色の扉を開けた。
そこには椅子に腰かけて仕事する少女がいた。
その少女は赤いドレスを着ている。
作業に没頭している彼女の妖艶な横顔は、
大人びて見える。
しかしまだ親の保護下にある一八歳だ。
「今夜のことでお伝えしたい事が……ユーリー様?
手が止まっていますが、どうなさいました?」
布に刺繍針を指したままの主に問いかける。
「あら、いたの? マリ。
ゴメンね、完成したからってボンヤリしてしまって」
ユーリーは苦笑いを浮かべ、針を片付け始めた。
正方形の蓋つきのかごが彼女の仕事用具だ。
色どりあざやかな糸が赤黄色青黒と色彩順に順に並んでいる。
多少太さも変えているようで、何通りもの色と太さが交錯している。
大半は作業を終えているからかごに収められているが、作業中は床一面に極彩色の糸が無数に広がる。
「刺繍は明後日までにとのことでしたが……」
「今度こそ大丈夫。失敗したら依頼が来なくて、
飢え死にするしかないものね」
片づけながら返事をすると、
マリは嬉しそうに肯定した。
「ええ。それにしても今回の依頼主がこだわりがありすぎますわ。
やり直す前だって凄く素敵でしたのに」
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