ユーリー物語

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マリは見ずぼらしい仕事着で手を拭ってから、 完成されたばかりの作品を覗き見る。 布には優美な薔薇の形が忠実に再現されていた。 ワインレッド色の上品でいて、すべてシルク糸で仕上げたから触りごごちもよい。 確かに、マリの言い分も正しい。 はじめは薔薇の周りに葉をつけたのだ。 しかし葉を消して欲しいという要望が届いた。 その前はバラの形が気にくわない、 その前は縁取りが気にいらないという理由でやり直しと言われたのだ。 大抵の人には喜ばれるデザインだが、 今回の依頼主はお気に召さなかったようなのだ。 「それにしてもユーリー様は凄いですわ。一針も間違えないなんて」 深緑色の葉は一部が、花弁にかぶさった様に仕上げられていた。 ほんの一部だといっても一つ手順を間違えば、大部分をやり直さねばならないだろう。ユーリーは必要な部分だけ手直しをして、花弁のデザインを広げることでカバーできている。 「そんなに見ないでよ。刺繍を消すだけだもの。 簡単だわ。心配しなくても今回は自信あるのよ」 「綺麗ですわね。給仕様より伝言がありまして…… ディナーのご用意ができましたとのことです」 聞いた途端にユーリーは顔をあげて 出来るだけ可愛らしく言ってみた。 「出席しなきゃダメ?」 マリもできることなら出なくて良いと言いたいが、 勝手に許可を出したのでは起こられてしまう。 マリも負けじとにっこりと答えてみた。 「反応が解り易くて大変結構ですが、 何時までも子供ではないのですから。 必ず出席するようにとのことです」 ユーリーはガッカリしたように肩を落とした。160センチ程度のやや大きいユーリーでも力自体はそこまでない。 商品を引きずらないように折りたたむのはなかなか体力と神経を使うのだ。 完成した作品を、丁寧に包装しながら返事をした。 「解りましたっと。全く何なのよ!  今日は一段と煩いじゃないの!」 言葉には苛立ちが強くにじんでいるが、 手もとの作業はあくまでも丁寧に、慎重にこなしている。 今回で売買成立させたいのだ。 ちなみに納得したものを買いたいからと代金はまだもらえていない。 今回使った商品のすべての糸はシルクなのだ。かなり出費して素材を集めているだけに手間賃を上乗せして請求したいのだ。 これ以上何か言われてはユーリーの信用にかかわる。 作り手としては癇に障ることこの上ないが、 今までにないくらい丁寧に慎重に包装した。 折りたたんだ時のしわは最小限で済んでいるはずだ。 「では、ドレスも忘れずに。 それはレンと主様がお選びになりましたの」  不機嫌を察してか、マリはそう言って退出した。 「ホント、思い出しただけで腹立たしいわ」  着ている赤のドレスを乱暴に脱ぎ捨てる。 パーティー指定の青いドレスに着替える。 そして、姿の確認するために大きな鏡の前に立ってみる。 「なんでこれを選んだのかしら?  レンも父さまも見る目ないわね。 さっきの服のほうがあっていたのに……媚を売っているみたい」
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