ユーリー物語

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前方からみれば群青色の重厚感あるドレスと見える。 後ろは背中が露出しているという大胆なデザインだった。 ユーリーは160センチほどで、少々女性としては背が高い部類。食も太いとは言えないから薄い身体だ。 商売道具の両手は天女のように美しい。 彼女の姿を形容するならば凛々しいがよく似合う。 しかし、「可愛らしい」が褒め言葉の時代だからか賞賛されることはない。 ふくよかさが足りないのにもかかわらず、肌が見えるドレスは映えないのだ。 「これは……スース―するし、何とも言えない不快感だわ」  すべての感情を消して、精神を安定させる言葉を口に出す。 「ここからは無の時間。何も思わないこと」  言葉の魔法のおかげか自室の扉を閉めた時には、 震えは納まって背筋を伸ばす余裕が生まれた。 オーケストラが鳴り響く会場へ繋がる螺旋階段を下りていった。 ユーリーにとっては地獄でもあり、戦場といえる空間に…… ✝ ✝ ✝  館の中では使用人が慌しく準備をしている。 敷地内も左右対称が施されている。 庭師が計算して構成された美しい庭園だ。  雰囲気を壊さぬようにつかえている男たちは ゆったりと紳士の対応を心がける。 そうしなければ主人の評判はガタ落ちになるからだった。 庭では馬車が行き交っている。 太陽が落ちて薄明かりとなった庭園内だ。 庭に配置された使用人は十五名ほど。 そのほとんどが腰が曲がっているほどの老人だったり、 ひざが悪くてすばやく動けない中年男だったりした。 そんな中でもドレスやタキシードをきた来客者は増えていくばかりだ。  その中でも若者が一人いた。 力のあるレンはどこでも重宝がられていた。 使用人の中では一番背が高く、がりがりにやせていた。し かしどこに力があるのか使用人の中で二番目に力があるのだ。 「レン。屋敷までの道が複雑なようだから、 大門に立っていてくれるかい?」 大門とは3つあるうちの門の一番外側だ。 「お安いご用ですよ。案内すればいいんですね」 「その前にちょいとこちらへ来なさい」 レンがそちらへいくと顔面をごしごしと拭われた。 「痛いな。そんなに土まみれの布で拭かれてたら 痛いしきれいにならないよ」 「文句を言うな。さっきよりましだ。 ではよろしく頼むよ」 話しやすく、どんなことでも笑って引受け、 仕事は完璧なものだからこうした命も受けやすい。 彼は笑って引き受けて、馬を走らせた。
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