56人が本棚に入れています
本棚に追加
前方からみれば群青色の重厚感あるドレスと見える。
後ろは背中が露出しているという大胆なデザインだった。
ユーリーは160センチほどで、少々女性としては背が高い部類。食も太いとは言えないから薄い身体だ。
商売道具の両手は天女のように美しい。
彼女の姿を形容するならば凛々しいがよく似合う。
しかし、「可愛らしい」が褒め言葉の時代だからか賞賛されることはない。
ふくよかさが足りないのにもかかわらず、肌が見えるドレスは映えないのだ。
「これは……スース―するし、何とも言えない不快感だわ」
すべての感情を消して、精神を安定させる言葉を口に出す。
「ここからは無の時間。何も思わないこと」
言葉の魔法のおかげか自室の扉を閉めた時には、
震えは納まって背筋を伸ばす余裕が生まれた。
オーケストラが鳴り響く会場へ繋がる螺旋階段を下りていった。
ユーリーにとっては地獄でもあり、戦場といえる空間に……
✝ ✝ ✝
館の中では使用人が慌しく準備をしている。
敷地内も左右対称が施されている。
庭師が計算して構成された美しい庭園だ。
雰囲気を壊さぬようにつかえている男たちは
ゆったりと紳士の対応を心がける。
そうしなければ主人の評判はガタ落ちになるからだった。
庭では馬車が行き交っている。
太陽が落ちて薄明かりとなった庭園内だ。
庭に配置された使用人は十五名ほど。
そのほとんどが腰が曲がっているほどの老人だったり、
ひざが悪くてすばやく動けない中年男だったりした。
そんな中でもドレスやタキシードをきた来客者は増えていくばかりだ。
その中でも若者が一人いた。
力のあるレンはどこでも重宝がられていた。
使用人の中では一番背が高く、がりがりにやせていた。し
かしどこに力があるのか使用人の中で二番目に力があるのだ。
「レン。屋敷までの道が複雑なようだから、
大門に立っていてくれるかい?」
大門とは3つあるうちの門の一番外側だ。
「お安いご用ですよ。案内すればいいんですね」
「その前にちょいとこちらへ来なさい」
レンがそちらへいくと顔面をごしごしと拭われた。
「痛いな。そんなに土まみれの布で拭かれてたら
痛いしきれいにならないよ」
「文句を言うな。さっきよりましだ。
ではよろしく頼むよ」
話しやすく、どんなことでも笑って引受け、
仕事は完璧なものだからこうした命も受けやすい。
彼は笑って引き受けて、馬を走らせた。
最初のコメントを投稿しよう!