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 先ほど絵の話をしてきた二人組の貴族が話を振ってきた。 ワインボトルが数本空となった。彼らは頬が赤くなり、声も大きくなっている。かなり酔っぱらっている。 「いえ。以前、飲んだことはありますので」 このワインはこの近くの街では珍しいかもしれない。 だが、ユーリーは刺繍職人の資格を進呈するために 宮殿に一度だけ行った時にそれを飲んだ事があるのだ。 一番階級が低かったためにとことん飲む羽目になったから、 高価な代物という認識は正直言ってない。  そんな回想をしている間にもガヤガヤとした噂話は収まらない。 愛想笑いを浮かべていた口元も あまりの馬鹿騒ぎに次第に引き攣ってきた。 ある男性に並々と注がれたワイングラスを示されたので首を横に振り、 固辞の素振りを見せた。 酔っているから気にせずに勧めてくる。 「遠慮せずに。さあさあ」 「ですからわたくしはあまり好きではないのです。 遠慮しますわ。それに気分がすぐれませんの。 今宵は下がらせていただきますわ」  腰を上げかけた彼女に貴族の男は腕を掴んできた。 「最後に一つ。提唱者が亡くなられたとか」 「……そうでしたの? 惜しいことですわ」  優雅な見た目にそぐわず、 強い力に顔を顰めつつも貴族のほうを見れば胡散臭い笑顔にぶつかった。 「最も風の噂に過ぎないがね」 「そうでしょう。本当なら困りますわ。失礼いたします」 ✝ ✝ ✝   部屋を出ると、螺旋階段の前にいたマリが駆け寄ってきた。 マリが一番ユーリーの様子を気にかけてくれるのだ。 使用人たちは、一応お客様の前にでて、もてなす役目もある。 そのため、マリもドレスは着用している。 しかしユーリーのように華やかではなく、給仕のドレスだった。 「ユーリー様、大丈夫なのですか? 顔色が悪いようですわ」 強張る顔を無理に笑みの形にして、 心配性のマリを安心させる。 「大丈夫よ。それより、今日も籠るから部屋には……」 「わかっております。入りませんから、お休みくださいませ。 今にも倒れそうではありませんか」  多くを言わなくても察してくれるマリは、貴重な存在だ。 屋敷の中で使用人は大勢いるが、 いつもユーリーのことを思って、行動してくれる人はそうそういない。 もっとも屋敷の全員がユーリーの父親によって 雇われていると思っているから仕方ないのかもしれない。 いつもよりもふら付きながらゆっくりと螺旋階段を上がる。 アルコールの香りで身体へ影響ではない。 精神的な疲れのせいで体が重いのだ。 鉛のように重い腕を動かして自室の鍵を閉めた。
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