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それより……いつから来ていたのだろうか。私が出た試合も、見られていたのだろうか。
負け試合だったけれど、私は、最後のあの試合を見てくれていたらいいな、と思った。弱さをなくすのではなく、私がちゃんと自分の弱さを認められたあの克服の始まりの瞬間を、九条先輩には見ていてもらいたかったから。
駐車場へ出て、迎えに来てくれたお母さんの車に乗りこむと、
「おつかれさま。どうだった? 試合は」
と聞かれた。荷物があるから後部座席に乗った私は、ルームミラー越しに、
「うん、負けちゃった」
と答える。
「あら、そうなの。残念だったね」
「うん」
門から車道へ出て、スピードが加速される。私は、並木道を車窓越しに見ながら、シートに背を預けた。心地いい疲労感と充足感が、今の私を満たしてくれている。
「お母さん」
「んー?」
「実は今日、私、試合に出たんだ」
「えっ?」
ルームミラーの中で一瞬だけ目が合った。微笑んでいる私を見て、お母さんは、
「そうなの?」
と聞き返す。
「ここ最近、部活で練習もしてて、あと……」
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