私が克服すべきだったもの

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 試合に出るまでの流れを話しながら、あぁ、きっといろんなきっかけは、九条先輩がコーチに来てくれてからだったんだな、と思い返す。  先輩がいなければ、マネージャーのままで高校生活を終えていただろう。空気を読むことばかりに気を取られ、自分を守ることに必死で、経験と挑戦という言葉が自分の中に根づかないまま、薄っぺらい大人になっていたかもしれない。 「どうりで、最近の澪佳は食欲があるなぁ、って思ってたのよね」 「ハハ」 「大丈夫?」 「うん、大丈夫」 「なら、よかった」  お母さんはもう、無理をしないで、とは言わなかった。  ラジオから知っている曲が流れたからか、お母さんは小さく鼻歌を歌いだす。私はまた窓の外へと目を移した。 「……?」  そのとき、ジャージのポケットの中での振動に気が付く。スマホを取り出した私は、そのトーク画面に思わず噴き出した。  そこには、先輩からのスタンプがひとつ。かわいいハリネズミが、吹き出しで〝よく頑張りました〟と言っているイラストだった。
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