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嫌になるな。藍川先生に嫉妬してしまう自分も、こうして何度も先輩からもらったスタンプを眺めている自分も。
私は誰もいないベンチの隣を見て、今度は自分の手のひらを見た。本当に夢だったのかもしれない……、隣同士肩が触れ合う距離で、この手とあの手をつないでいた、あの期間は。通り過ぎていく生徒たちに、『いいなぁ、カレカノ』なんて羨ましがられていた、あの期間は。
「手相、見てんの?」
「…………」
一瞬、聞き間違いかと思って、私は手のひらに視線を固定したまま、無言を貫く。すると、隣に座った振動とともに、ベンチが軋んだ音を出した。
「……え?」
顔を上げておそるおそるそちらを見ると、一番最初と同じ、人ふたり分空けた距離に、私服姿の九条先輩がいた。
「おつかれ」
「おつ……おつかれさまです」
疑問符が私の頭の中に充満する。まず第一に、先輩は金曜日から来ると、藍川先生が言っていたはず。そして、今日は部活に来ていなかったのに、なぜここに?
「なん……」
「元気?」
けれど、尋ねる前に逆に尋ねられてしまう。私は小さく何度も頷き、
「はい……元気です」
と答えた。まだ瞬きが止まらない。
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