ありがとう、ありがとう。

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 *** 「林ミク……十六歳の、高校二年生……ですか」  ある場所。ある研究所。  一人の女性がため息をついて、資料をテーブルに戻していた。  そこにはずらずらと並べられた一人の少女のプロフィールと、バラバラのぐちゃぐちゃになった“少女だったはずの”遺体の写真が貼りつけられている。 「“ありがとうの魔物”は、本当に見境なくターゲットを選ぶようですね。一体何をトリガーにして発症するのか全くわかりません。おかげで、怪異の原因を特定することもできませんし、こちらの研究機関で保護・監視をすることもできません」 「そうですね、参りました。彼女が“人からの感謝”を過剰に求めるため、行き過ぎた善行をするようになっていた……という情報も、彼女の死後に届いたものですしね。事前に察知して、止めることはあまりにも不可能です」 「どうにかなりませんかね。十六歳の女の子が、自らの保険金目当てに事故を装って電車に飛び込むなんて。しかも、その保険金が全額寄付されるように遺書を残しておいたなんて……こんなの家族も浮かばれませんよ。電車の事故って言ったら……ねえ?」 「いずれにせよ、我々がするべきことは一つでしょう」  タン!と音を立てて、白いテーブルに叩きつけられる女性の掌。  悲劇を嘆く暇など自分達にはない。まるでそう自分達に言い聞かせるように。 「監視続行。……この現象は既に五件、全て日本で起きています。首都圏を中心に、怪異の調査を続けましょう。これ以上、同じような被害者を出さないために。それが我々機関の存在意義なのですから」
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