ありがとう、ありがとう。

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 友人のエリやナナに、なんだか微妙な顔をされるようになってしまった。ちなみにミク、というのが私の名前である。 「いっつも、歩く時地面の方ばっかり見て。何だか、落し物を探さないと気が済まない病気みたい」 「酷いこと言うなあ。私は人助けがしたいだけなのに。それって悪いことなの、ナナ?」 「いや、そんなことは、ないんだけど……」 「ならいいじゃん。私も誰かを助けてお礼言って貰えてハッピー、相手も助かってハッピー。何も悪いことはないでしょ?」 「そ、そりゃそうなんだけど……」  何が気に食わないのだろう。私は不満を抱くようになっていた。そもそも、落し物は落とし主と直接話ができなければ、本人からのありがとうは貰えない。交番のお回りさんも一応ありがとうございますと言ってくれるけれど、本人じゃない分どうしても薄味な印象だ。  私はさらに切り替えることにした。  やっぱり、一番人の助けになるのはお金だ。募金をするのがいい。時に、駅前などで募金箱を持っているような人がいたら、積極的に募金するのがいいだろう。特に、“きいろい羽募金”は毎週金曜日には必ずガールスカウトっぽい女の子たちが立っている。大量の募金をするにはもってこいだろう。 ――問題は。私のお小遣いじゃ、かき集めても数万円が限界ってことなんだよね。  そもそも、何十万円も募金をしたいなら、それは募金ではなく“寄付”にした方がいいような気がしている。なんとか、多額のお金を一気に寄付して、濃厚な“ありがとう”を貰う方法はないものだろうか。  借金でもすればいいのかもしれないが、自分のようなただの女子高校生にお金をたくさん貸してくれる金融業者があるとも思えない。ああ、どうしてお年玉をきちんと貯金してこなかったのか自分、なんて後悔なんぞ今しても襲いことである。  ならば。 ――そうだ!  私は、以前家族で話していた“あの件”を思い出した。念のため全員入っておきましょう、ということになったのではなかったか。あのお金が、まるまる寄付されるように仕向ければ――。 ――よーし!  まずは、計画を練らなければ。私は目の前がぱーっと明るくなったような気持ちで、家を目指して歩きはじめたのだった。
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