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「お、おかしいですね……この本によれば、異世界転生させられた人間はみんなチートスキルを貰えば喜び、あるいは多少困惑してでも異世界に慣れて楽しくスローライフを満喫するようになると書いてあるんですが。元の世界にガチで戻りたがる人間なんて今まで聴いたことも見たこともないですよ……?」
「何手本にしてんの?ねえ?」
そりゃ異世界転生系のラノベならそうだろ、としか言えない。
だって主人公が異世界嫌って元の世界にさっさと返せと喚いたら、異世界ファンタジーとして成り立たないではないか。チート無双とハーレムウハウハが描きたい作者が、そんな無駄に現実的な人間を主人公に据えるはずがない。
だが、これはラノベではない、現実なのだ。よって。
「俺は、娘たちの誕生日ケーキ買って帰る予定だったの!可愛い可愛い双子の娘ちゃんと、美人な奥さんと一緒に最高の誕生日パーティするはずだったんだよ台無しにしてくれてんじゃねーよ!」
俺が叫ぶと、女神二人は揃って“ががーん!”と叫んで石化するという、やや古すぎるリアクションを取った。
「そ、そんな……そのブサイクでデブな見た目で……リア充なんて!異世界転生で呼ばれる主人公はみんな非リアと決まっているのに……!」
「はったおすぞコラ」
「どうしましょう……嫌だと言われても、異世界転生で呼んだ人間は勇者か魔王にしないといけない決まりなんです。めっちゃ手間かけてトラック操って人一人ぶっ殺して世界の壁すっとばしてここまで呼んだのに」
「お前らが諸悪の根源じゃねえか!ざっけんな!!ていうか知るかー!!」
そんなに手間暇かけるなら、最初から異世界転生希望者をちゃんと募ってから転生させてください。今後は同意もなく異世界から安易に人をぶっ殺して転生させてひっぱってくるなんて馬鹿な真似やめてください。
それと、もうどうでもいいので俺をさっさとおうちへ帰してください。
異世界の法律がー、だの。神様からおしりぺんぺんされるのが嫌ーだの。わけのわからないことを叫びまくる女神を説得するため、俺はこの“スタートもしてない真っ暗闇”の中で、延々と時間をかける羽目になるのだった。
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