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コロナ禍ではあるが俺は行きつけの居酒屋で一杯ひっかけてから帰宅した。
「ただいまー」
自分で鍵をあけて入ると妻が三指をついて玄関の床に頭をこすりつけんばかりの格好を保っていた。
「うちはそんなに格式の高い家じゃないんだからやらなくていいんだよ」
「いいえ、一家の主たる貴方様がご帰宅なのですからこのくらい当たり前でございます」
俺は頭をかく。何せ結婚して以来20年も経つのにこの習慣は衰えないからたいしたものではある。
が、しかしそっと帰りたい時もあるんだ、男は。
そうそう、ちょっと悪さして来た夜とかね・・・。
昔、親父が言っていた。
「女遊びしたあと、カミさんが何にも言わないのが一番怖い」って。
俺もそれがわかる年になったんだな。
そんなことを思っていると、妻のいつもの質問が始まった。
「貴方、お風呂にしますか?それともお夕食?それともわたくし?」
このセリフ、昔のギャグだろ!とツッコミを即入れたい俺なんだが、それはダメだ。
なにせ妻は本気で言っているのでスルーしたりバカにしてはいけないのだ。
そりゃー、初めは新鮮だったよ。
でも、20年だよ20年。
俺が答えるまでじっと見ている。ヤバい。
「あ〜そうだな、すぐお前に行きたいところだけどとりあえず風呂にするよ」
お世辞でもこの一文を入れなければならない。
そう、"すぐお前に行きたいところだけど"を入れないと傷ついて廊下にひれ伏して泣くんだから。
正直、面倒臭いよ。
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