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ーーそうだ。この人なら教えてくれるかもしれない。
「あのー、店員さん」
「はい。何ですか。緑さん」
「?……緑さん?」
「すみません。……お客様のお名前、勝手に“緑さん”と私たちは呼んでるんです」
美花は、思わず吹き出してしまった。
「私、昔からの友人達に、“緑”って呼ばれています」
「もしかして、本当に緑さん!?」
「いえ。違います。でも、いっそのこと緑の方がいいです。」
「本名を教えてもらえますか?」
自然な尋ね方と「本名」というのが何だか楽しくて、躊躇わず答えてしまった。
「木下美花といいます。美しい花と書いて。」
「そうなんですね。私は佐倉と言います」
「え?桜?」
「いえ、佐藤の佐に倉で佐倉。佐倉大樹といいます。たいじゅで大樹。」
今度は、顔を見合わせて笑った。
「親に感謝したいような、安易だろ!って突っ込みたいような」
「私もそれ、よくわかります。」
「で、美花さんはさっき何を言いかけたんですか?」
大切なことを聞き忘れるところだった。
「私、植物を育てるのは得意だと思っていたんですけど、この子達だけは全部咲かせてあげることができなくて」
もう、特に意識せず花を擬人化していた。この店員さん相手なら、許される気がした。
「ああ、なるほど」
「コツがあったら教えていただけませんか?」
「咲いたら、店に教えに来てくれますか?」
「それが交換条件なら、勿論!」
美花の意志が伝わるような、真剣な表情で答えた。
「交換条件というわけではないんですけどね……美花さんがお世話すると、花が長持ちするんでしょう?間が空いたら、花が咲いたと思えば良いのかもしれませんが、はっきり聞きたいんですよ。」
「なるほど。そのお気持ちは分かります。咲いたら、報告に参ります!」
「良かった」
佐倉は、美花の反応を楽しそうに眺めていた。
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