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現在
「すごいっ! 綺麗っ!」
さっきまでの険悪な雰囲気はどこへやら、妻はまるで子供のように大はしゃぎしていた。
「あれがあなたの作った花火なんて! 素敵!」
赤、黄、緑。色とりどりの花が真っ暗な夜空に咲くたび、ようやく夢が叶ったのだと、思わず目頭が熱くなった。
まだまだ半人前だが、今ぐらいは感傷に浸ってもいいだろう。
橋から少し移動したあたりで、何台かの車が路肩に連なって停車している通りを見つけた。俺もひとまずその中の一台に仲間入りし、妻と一緒に夜空を眺めることにした。
「わぁー! 今のなに? ヒキカエル?」
「クマだよ」
「へぇー! あっ! 今度はミミズ!」
「……ヘビのつもり。一応」
妻からの悪意の無いダメ出しに、どうやらまだ半人前にもなれていないようだと実感して、ちょっぴり肩を落とす。
だけど……と、隣で天真爛漫に笑う妻を見て思う。
挫けそうになった時、何度もこの笑顔に救われて、俺はとうとうここまで来られた。
ゆっくりと妻の右手に自分の左手を伸ばす。そして包み込むようにして握りしめた。
妻がきょとんとした顔で俺の方に振り返る。
こっぱずかしいが、伝えなければならないと思った。
「花火以外からっきしダメな俺を、君が今まで支えてくれたから、俺は夢を叶えられた。いつもありがとう」
「……私も、あなたの夢が叶ってすごく嬉しい」
鈍感な俺でもわかるぐらいに甘い空気が流れる。先ほどまで二人を険悪にしていたシンガーの曲が、今はこの上なくロマンチックなBGMとして二人を包む。
妻は少し赤らんで、静かに目を閉じた。その顔は、俺のハートの導火線に火を付けるには十分だった。
俺は妻の肩を両手でがっしりとホールドし、無防備なその唇にしっかりと狙いを定め……。
「お母さん、今の何ー?」
「変な色ー」
「なんじゃあ、今の花火は」
突然周囲がにわかに騒がしくなり、ロマンスの火種は一瞬で鎮火された。そういえば他にも駐車している人がいるんだった、と思い出す。
俺も妻もさすがにもうそういう雰囲気ではなくなってしまい、渋々窓の外の薄明るい夜空に視線を戻した。
そこに見えたものは……。
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