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12年前
花火大会の後、もう暗いからと彼は私を家の前まで送ってくれた。
こうして会えるのも、きっとこれが最後。
「次に会う日までに、カレーぐらいまともに作れるようにしときなさいよ」
「あはは……おう」
「お互い絶対夢を叶えるのよ」
「おう」
「それから、私が夢を叶えた時は、あなたがファン一号になるの。わかった?」
「おう」
「それじゃ」そう言って私は玄関の扉を開きかけ、もう一度彼の方に向き直る。彼はまだ私を見送るように立っていた。
一つだけ、確認したいことがあった。
「もし……私が夢を諦めてこの町に残ったら、ずっと一緒にいられたと思う?」
彼の鼻がヒクヒクと忙しなく動く。
彼は少しの間の後、鼻先を指で掻きながら、「かもな」と言った。
「そう。良かった」と私は返す。
良かった。
これで私も夢に向かって、真っすぐに突き進める。
私の言葉の真意が分からず、困惑した様子の彼に、私は晴れ晴れとした気持ちで伝えた。
「今までありがとう。さよなら」
「迷い」という鎖から解き放たれた私の声は、今まで私が発したどんな声よりも軽やかに、遠い空の果てまで飛んで弾けた。
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