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「あなたの花火が上がるところ、観たいな」  そう言った妻を助手席に乗せ、花火師である俺は地元一の穴場スポットへと車を飛ばしていた。  時刻は一八時五〇分。花火大会の開始時刻、一九時はもうすぐだ。  何の気なしに付けたカーオーディオのラジオからは、今流行りの女性シンガーの歌が流れている。  夏のドライブによく似合うアップテンポなその曲を口ずさみながら、俺はおそらく内心、妻以上にワクワクした気持ちでアクセルを踏みこむ。 「ねぇ、あなた。その歌好きなの?」  隣に座る妻が唐突に口を開いた。無意識で歌っていたから一瞬何のことかわからなかったが、すぐにラジオから流れる曲についての質問なのだと気付く。 「別に、普通だよ」 「ふーん。(そら)で歌えるぐらいなのに?」  ……おっと、これは迂闊だった。普段はおっとりとした妻の鋭い指摘に、ついドキリとしてしまう。  確かに俺は歌詞を見ずとも歌える程度にはこの歌が好きだ。別に恥ずかしがったり隠すようなことでもない。  ただ個人的感情として、妻に対してこの曲を好きだと言ってしまうことに、なんとなく、後ろめたさに似たものがあった。  さて、なんと答えたものか。 「毎日毎日いろんなメディアで流れてたら、嫌でも覚えるさ」  我ながら即興にしては良くできた言い訳だと思ったが、妻はそれについては何も応えず、ただジッと俺の顔を凝視していた。  あんまり見られるものだから、鼻の頭がムズムズしてなんだか居心地が悪く、ついつい指でしきりに掻いてしまった。  しばらく沈黙の攻防が続いていたが、ようやく飽きてくれたのか、妻は「あっそ」と言ったきりそっぽを向いてしまった。  助手席側の窓に映った妻の顔はやけに不機嫌そうに膨れていたが、俺は見て見ぬふりをして、アクセルを踏む足にさらに力を込めた。
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