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あの時。 森の国シンフォレスは、春まっさかりだった。 火の国エンフレイムとは次元を超える扉で繋がっていた。 二国間は人も物も活発に行き来していた。
その日は皆でお花見だった。 シンフォレスの桜がそれはもう綺麗に咲いたから。
親交の深い火の国と楽しい時を過ごそうと、森の時の重鎮が発案し、森から火を招待した。
火の国からは、王と王子二人と側近二人と。 森の国からは父である王と王子の自分。 そして発案者である大臣が一人着いてきていた。
大人たちは酒を交わし、自分たち子供は桜咲く森の中、まだ小さい王子を囲んでいた。
『カイくんももうじき一歳なんだよね?』
ゴウ兄は抱っこ紐で弟であるカイくんを抱っこしている。 最初はおぼつかなかったけど、そんな姿もすっかり板に付いてきた。
『おう。 かーわいいだろ、もうじき一人で立って歩き出すぞ。 早く追っかけっことかしたいなぁ……』
自分と同じくカイくんを覗き込む火の国の側近の子。 彼は昨年に行き倒れているところを火の王に拾われた孤児だ。 歳はゴウ兄の一つ下、自分と同い歳。 まだまだ子供なのに苦労を幾つも重ねてきている彼に、自分は畏敬の念を抱いていた。
『ゴウさん、ちゃんとオムツ替えもやってくれるんすよ。 大っきいほうん時は俺に回されるけど』
『うるっせえ、出来なくはねえんだぞ? だけどリクのほうが確実に慣れてるから、やってもらってるだけでえ!』
ゴウ兄はダメ出しされてちょっと赤くなっている。 思わず微笑んでしまった。
『カイくん、お兄ちゃんが二人もいるんだね。 いいなぁ……』
何の気なしに呟いた。 だけどゴウ兄はその呟きに目を丸くした。
『え、何言ってんでえコラ。 三人な、三人』
『え?』
『俺とリクと、お前。 カイはな、おっ母が俺らに遺してくれた、みんなの弟、みんなの希望なんだ 』
火の国の王妃は、カイくんの誕生と同時にお亡くなりになった。 ……そして自分もつい先日に、母親を亡くしてしまったばかりだった。
『……そっか、……そうだね。 ありがとうゴウ兄』
『へへ。 だから、お前も可愛がってくれよな。 俺達の弟を―――』
桜が舞う。 大量に舞い散る。 淡いピンクがザアッと脳裏を駆け巡る―――
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