囚われる女、楠瀬恵海

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ストレッチャー搬入用の大きさだったので全員乗れ、他の人もいたので皆口をつぐんだ。 静かに下降中、智生を横目で見ると携帯で何か操作している。私は尻切れトンボになった言葉をつなぐべきか悶々とした。 軽やかな音がしてドアが開く。 閉じられた空間から広い場所に出たせいか、開放的な顔で萌達は次の予定を話している。 (もう改めて話さなくていいか、立ち消えたまま解散で…) なんて私が思った矢先、 「で?さっき楠瀬が言いかけた事は?」 と柿本が聞いてきた。 彼は学生時代から苦手な相手だ。 回りの空気を読む察しの良いとこがあるくせに、私が言い淀むとわざと言わせようとする意地の悪いところがあった。 さっきだって皆を和ませた。 なのに何故、私の空気は読まない?! 私に注目が集まる中、 「別れたんだ俺たち」 背後で智生がハッキリ言った。 すると皆一様に驚いた顔をしながら、私から智生に視線を移す。 柿本だけが私をずっと凝視している。 その問い詰める様な強い視線に、私の鼓動は幾分早くなった。
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