囚われる女、楠瀬恵海

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囚われる女、楠瀬恵海

駄目だって分かってる。 だけど、どうしようもない… 幸せだったあの頃を思い返し、 寂しさがつのって、 目の前の手をとった。 自分に与える免罪符かわりに涙が一雫流れた。 「気持ち良くて?それとも悔し涙?」 こんな時まで憎まれ口を言う男は刻んでいた弛いリズムを止め、私の涙を舐め取った。 何で泣いたか承知だろうに、嫌な奴。 あの人(元彼)とは違う愛し方だった。 当たり前だ、園田智生と違う男だ。 男がやけに優しく、まるで本当の恋人みたいに丁寧に愛撫するから。 そして蕩けるようなキスをし、貪るように何度も求めるから。 錯覚する… 二人とも汗と体液で全身が濡れているので、繋がってる部分は滑らかに動く。 くちゃ、くちゅ、ぐじゅ。 慎みを忘れた水音が響く。 次第に激しくなる彼の抽挿に溢れ出る愛液が摩擦を防ぎ、快感だけを私におくった。 これは智生を取り戻す為のレクチャー? 溜まる性欲を解消する為の運動? …それとも新しいカタチの始まり? 私をくみし抱く男に貫かれグルグル思考が巡る。 「ああ…」 「くっ!」 ついに女の部分が男を締めた。 閉じた瞼に力が入る。 同時に頭の中が真っ白になり、立ち籠めていた煩悩が霧散した。
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