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「飲んだよ……!約束破って……!」
言えばすべてが明らかになる……その先に行きつくところを考えたくなくて声が震える。
「昔寝てた友達と飲んだ。そいつんちに泊めてもらった。でも何もしてない。約束を破ったのは悪かったけど、元はと言えば伸一さんが嘘をついたから……だから俺……」
伸一さんの嘘と俺の行動を結びつけながら、すぐに苦しくなって言葉に詰まる。
誰がどんなことをしようと自分の行動は自分の責任で……人のせいにするのは俺の最も嫌う所だったから。
ほんのひと時シンとして……外で伸一さんがドアノブに手を掛け、またコンコンとノックした。
「潤。開けてくれ。話がしたい」
「伸一さん……なんで……?俺だけじゃなかったの……?」
「……何を言ってる?何のことだ」
「水曜日……仕事のうち合わせの後、空港に行ったんだよ。そこで見た。伸一さんがホテルから若い男と出て来るとこ。お金渡してた。伸一さん嘘ついたよね……最初に言ってた便には乗らなかったでしょ……あいつと、会ってたから──」
はっきりと音に出してしまうと、ついさっきまで頭の中で正体が曖昧だった仮想の世界が重いリアリティを伴って伸し掛かってきて、悲しみも、寂しさも抱えきれないくらい大きくなって溢れ出し、零れ落ちた。
「頼む、開けてくれ……嘘をついて……済まなかった。そのことについてもちゃんと話すから。だから、開けてくれないか」
伸一さんの声からさっきまでの冷たさや、怒りが消えてた。変わらず俺に向けられたまっすぐな気持ちさえ感じて……俺は躊躇いながらそっとカーテンをスライドさせた。
ガラスの向こうの恋しい瞳を見た途端、また新たな涙が零れた。
子どもみたいな泣き方が本当に嫌になる……
俺を見下ろす伸一さんの顔が、薄暗さの中にも分かるくらい辛そうに曇った。
「潤……誤解だ。あいつは……」
ガラスに手を触れ、次の言葉を待つ……伸一さんが一息にいうのを躊躇って視線を脇に逸らし、それからまた俺を見つめた。
「あの男は……探偵だ。あの日、出がけに見た君があんまり綺麗だったから心配になって……ついまた依頼してしまった。嘘をついたのは、そういう真似をしないと君に言っていたからで……」
まったく想像してなかった答えに唖然として言葉を失った。
探偵を使われてた事実なんか今はどうでも良くて……ただ、失いかけてた恋が息を吹き返したことにまた涙が零れた。
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