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鍵を開けた。
ドアがすうっと外に開かれた。
彼は入ってくるなり俺を掻き抱いた。
息も苦しいほど強く抱きしめられて目を閉じた。
しばらくしてふっと力が緩んで……少し乾いた温かい手の平が俺の頬に触れ、閉じた瞼の合わせ目の湿りを親指が拭った。
「悪かった……疑心暗鬼と言うが……誓う。もう二度とこういうことはしない」
涙を拭われた瞼を上げて伸一さんを見れば……恋い焦がれた瞳は確かに今までと変わらない秘めた熱さで俺を包むように見た。
たった4日の間のこのアップダウンに翻弄された俺は、降りて来た唇を深く迎え入れ、腰をすくい上げるように抱き締められるのにつま先立ちをして奪われるままになった。
柔らかく食むように湿った音を立てながら吸い合う唇……
安堵と歓びが官能を倍増しして、でもふとあることに思い至ってキスから逃れ両手で伸一さんを押して距離を取ろうとした。
「これ昨日の服で、におうかも……放して伸一さ──」
「別に気にならない」
「俺は気になるの……!」
伸一さんが喉の奥で笑って俺の後頭部に手を当て、顔を胸に押し付けるように更に強く抱き込む。
「こうすればわからないだろう」
ふわりと鼻をくすぐるいつもの彼の香りに、やけに『伸一さんだ』って感じて……
「帰ろ……ベッドに行きたい……」
顔を上げ、少し背伸びをするようにして彼の頬に口づけた。
伸一さんは同意するように小さく笑って、またひとしきり俺の唇を柔く深く割ってから俺を解放した。
その晩の彼との時間がどれだけ甘くて濃厚だったか……それは今も思い出せば体がジンと熱くなるほどで、けどそこに出来たボーダーも、俺の誕生日にはまた越えてしまった。
今年の誕生日は水曜日で店の定休日と重なってて、伸一さんは仕事のスケジュールを工面して一緒に休みをとってくれた。
俺が前から見たいと思ってた歌舞伎に連れてってくれて、馬刺が美味しいお店でご飯を食べて、俺達が初めての夜を過ごしたホテルのスイートで甘く甘く溶かされて……長く続く絶頂に朦朧としたまま彼を目に映し、歓喜の限界を超え……気付けば起きる時間になってた。
『もう二度とこういうことはしない』と誓った彼のヤキモチと心配性は今も相変わらず。
それでも俺の行動を制限するようなことはしなくなったし、口出しも最小限にしてくれてるのが分かるから、俺も不安にさせないようにこまめな連絡をするようにしてる。
遥なんかには「無理だわー」って言われるけど、別に構わない。
だって好きなんだ。
ファッションと同じでさ。
自分が好きならそれでいい。そんなもんだろ?
End.
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